最終年度として、これまでの調査・研究で得られた知見をまとめつつ、まだ実施できていなかった調査計画を実施した。 より具体的には、現地での調査助手を雇用して、タイ東北部における現地調査村、二か村において、全数の質問紙調査を実施した。ゴム栽培が入る前と現在とで、社会経済がどの程度、変化したのか、自然資源への依存が、ゴム栽培への従事とどのような相関にあるのかを明らかにした。 以上も含め、これまでの研究成果としては、以下の通りである。 1)従来、水田耕作を中心に、周囲の自然との生態的つながりのなかで生業が営まれてきたが、そうした生業・生活世界が解体され、グローバルなゴム産業のネットワークに統合・再編されつつあること、現金収入が安定的に増加し、生活スタイルや教育水準の面で農民の中間層化が進行しつつあること、が明らかになった。つまり、単に、市場経済システムに統合されてゆくというだけではない。水田耕作や自然環境との関わりも含めて、生活の細かな部分で、これまでの事物と人々の間の相関が、ゴム栽培を中心としたものに組み替えられてゆく様子を明らかにした。 2)上記のプロセスが完了した南部では、従って、ゴム価格の下落は東北部よりも生活全般に深刻な影響をもたらす。2013年に起こった、南部でのゴム農民による多発的な道路封鎖は、こうした農民の置かれた状況を物語っている。ただし、農民の行動の背景には、多層的な要因があり、ある論理で明瞭に説明できるわけではない。加えて、人々が集会に集まった状況で、身体を媒介とするような情動の連鎖も、道路封鎖という手段に発展した大きな要因であった。 こうした成果は、日本タイ学会、環境社会学会で報告し、さらに、1)については、『東南アジア研究』誌に投稿し受理された。2)については、投稿論文作成の最終段階である。
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