研究課題/領域番号 |
25360032
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
五十嵐 徳子 天理大学, 国際学部, 准教授 (80294156)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ジェンダー / 移民労働者 / ロシア / 中央アジア / タジキスタン / 高齢化 / ケア労働 |
研究概要 |
本科研では、ロシアと中央アジアにおける労働力移動とジェンダーの変容について明らかにする。特に、少子高齢化が進行するロシアにおける中央アジアからの女性移民労働者に焦点を当てる。具体的な研究項目は、A)ロシアにおける中央アジアからの女性労働移民の実態について解明、B)ロシアで就労する移民女性の母国におけるジェンダーの変容について分析、C)女性移民労働によるロシアのジェンダー状況の変容を把握することである。平成25年度は、以上3つの課題の解明のために、ロシアとタジキスタンで現地調査を中心とする研究活動を行った。 移民受け入れ国であるロシアでは、ペテルブルグにおいて、サンクトペテルブルグ国立大学、団体子供の家(NPO)、ムスリム新聞社「トラン」、ユダヤ人センター、独立社会調査センター、および移民女性へのインタビューを実施した。中央アジアからの移民の置かれている状況および特に女性移民の労働状況についていくつかの事例を聞き取り調査から得ることができた。 また、移民送り出し国であるタジキスタンのフジャンドでは、市内、農村地域においてロシアで仕事をしたことのある家族を中心に男女ともに聞き取り調査を行った。 まだ、サンプル数はロシア、タジキスタンとも少ないが、大きな傾向は今回の調査で把握することができ、成果を得られた。今後この調査をさらに進めていくことで本課題の解明へ接近することができると確信している。 平成25年度の研究成果の一部を2つの国際シンポジウムの招待講演で発表し、国内のロシア・東欧学会のパネル・ディスカッションにおいても特別講演でスピーチを行った。また、研究成果を断片的に『ロシアで生きる ソ連解体と女性たち』で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロシアにおける労働移民は決して特別な人ではない。実際にタジキスタンで話を聞いた多くの人は、大卒であっても中卒の人であっても、一部の人を除いては本国でまともな職にも就けないのである。就けないというより就く仕事がないのである。 そもそもソ連時代にはそれぞれの旧共和国が分業することによってソ連前代の経済が成り立っていたのであるから、独立国家になっても分業時代の負の遺産は残り主たる産業もない。人々は食べていくために本国でどのような仕事に就いていたとしても、ビザのいらない彼らに比べると経済的な繁栄をしているロシアを目指す以外に生きていく方法はないのである。ロシア人は中央アジアからの労働移民の多さやマナーの悪さに不満を持っている。それでも中央アジアからの労働移民はロシアでしたたかに生活している。 特に女性移民は、パテントという新しい雇用システムが2010年から導入されたために、個人契約でお手伝いさんなどの仕事についている。以前は非合法にお手伝いさんをしている人もいたが、現在は公式的にお手伝いさんとしてロシアに出稼ぎに来ることができる。これによりロシアにおける介護ケア労働者の確保が進んできている。移民労働者のロシア市場への参入によりケア労働者の賃金の低下が起こっているのではないかと思う。 また、問題点として、ロシアで介護を担う中央アジアからの女性移民労働者が増えるというのは、中央アジアでの家庭での介護要員を失うことに直結している。伝統的に中央アジアでは大家族、嫁の役割が大きく、夫の両親の面倒をみるのも女性だ。 しかしながら、昨今では夫婦で、家族でまた女性のみロシアへ出稼ぎに行くケースも漸増しており、今後中央アジアのジェンダーの規範にも影響を与えることが予想される。まだ集めたデータがそれほど多くないために次年度にさらにロシアおよびタジキスタンで現地調査を継続する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題は、ロシアと中央アジアにおける労働力移動とジェンダーの変容について明らかにすることである。特に、少子高齢化が進行するロシアにおける中央アジアからの女性移民労働者に焦点を当てている。具体的な研究項目は、A)ロシアにおける中央アジアからの女性労働移民の実態について解明、B)ロシアで就労する移民女性の母国におけるジェンダーの変容について分析、C)女性移民労働によるロシアのジェンダー状況の変容を把握することである。平成25年度は、以上3つの課題の解明のために、ロシアとタジキスタンで現地調査を中心とする研究活動を行った。 平成25年度の研究によって一定の傾向をつかむことはできたと思う。しかしながら、まだデータは十分ではないので、本年度も引き続きペテルブルグをはじめとしたロシアの都市、およびタジキスタンの都市部および農村部において現地調査を継続していく。具体的には8-9月にモスクワ、ペテルブルグ、ウラジオストック、ハバロフスクにおいて女性労働移民の女性に対して聞き取り調査を実施する。また、1~2月にはタジキスタンのフジャンドとその近郊の農村地域でロシアへ出稼ぎに行ったことのある人に対してインタビュー調査を行う。 日本国内の学会および国際学会で研究成果の一部を発表し、学会誌等に論文を投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究提携者の堀江がタジキスタンへ出張予定であったが、タジキスタンんで11月に大統領選挙があったためにビザが下りず出張できなかった。したがって予定していた計画が遂行できなかったために次年度使用額が発生した。 昨年できなかった堀江の出張を計画している。
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