研究課題/領域番号 |
25360032
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
五十嵐 徳子 天理大学, 国際学部, 准教授 (80294156)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ジェンダー / 中央アジア / 移民 / ロシア / 高齢者介護 / タジキスタン / 少子高齢化 / 労働力移動 |
研究実績の概要 |
平成26年8月12日~24日にロシアのペテルブルグで現地調査を行った。昨年から継続しているウズベキスタンおよびタジキスタンからの移民女性へインタビュー調査を行った。今回の調査ではウズベキスタン出身の女性が多かった。具体的には、サマルカンド、ブハラ、ウルゲンチである。ロシアで移民女性の就く職業としては、掃除婦、キヨスクの野菜や果物の売り子が最も多く、さらにアルバイトで高齢者の家政婦の仕事もしている人もいる。調査では移民の法的な支援を行っている弁護士に救済措置について聞いた。また、ペテルブルグ医療・社会プログラム慈善社会財団「人道的アクション」代表にもインタビューした。団体は、麻薬中毒女性、風俗で働いている女性への救済を行っている。女性の中には移民もいるそうだ。 また、平成27年3月23日~30日には、ペテルブルグとタジキスタンのフジャンドで現地調査を実施した。フジャンドでは、タジキスタンに独特の行政街区であるマハリャのボランティア慈善団体の女性委員にマハリャでの生活とロシアへの出稼ぎの実態について聞いた。また、山岳地帯のシャフリスタン地区で経済貿易大学教授に地域の移民の現状についてお話を伺った。ペテルブルグでは、ロシアのホームレス支援慈善団体の法律担当者に移民とホームレスとの関係および高齢化対策に関する新しい法律について聞いた。また、ユダヤ人のための高齢者介護サービスを行っているNPO代表に、ペテルブルグにおける高齢者介護の実情についてうかがった。このNPOはペテルブルグ市と契約してユダヤ人以外の高齢者のケアも行っている。2015年1月から新しい社会サービスに関する法律が施行され、これについても資料を入手した。 以上のような調査を行うことにより本科研の課題であるロシアと中央アジアにおける労働移動とジェンダーの変容についてかなり接近することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25,26年度にロシアのサンクトペテルブルグおよびタジキスタンのフジャンドにおいて現地調査を行った。その結果、特に高齢化によって高齢者の介護をロシアでは女性が行っていることが一般的であり、仕事をしていても介護は家庭で行っている。その理由として、ロシアでは公的な介護システムを利用できる人がかなり制限されいることがあげられる。また、それ以外に高齢者介護は家庭の仕事であるといった規範も根強い。しかし、経済的な理由もあり女性はソ連時代と同様に仕事をしている。そのような中で家族だけでは高齢者介護を行うことができず、外部の手を借りることになる。そこでシジェルカと呼ばれる家政婦を雇用することが見られる。このシジェルカとして昨今は中央アジからの移民も働いている。これはロシア人に比べて安い労働力だからである。 一方、ロシアにおける移民女性の生活、労働に関する実態も現地調査によりかなり明らかになってきた。以前はロシアにおける中央アジアからの移民は男性が中心であったが現在は夫に同伴する妻や、単独で出稼ぎに来る女性もままいる。なぜ中央アジアの女性たちがロシアへとやってくるのかという点に関しては、タジキスタンのフジャンドでの聞き取り調査から、経済的な困難さ、よりよい生活のためにということが明らかになった。 以上のようにロシアでの現地調査とタジキスタンでの現地調査の双方の結果から、片方の側の事情だけではないトーナルな構造を把握することができた。課題達成のためにこの2年間でおおむね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究の最終年度である。現在は前年度の最後に行った3月のタジキスタンとペテルブルグの調査結果を検討、分析している。2015年1月1日にロシアでは移民に関する新しい法律(移民に対してロシア語、ロシアの歴史などの試験を課した)と社会保障に関する法律が施行された。二つの法律は分野が異なるために偶然に施行年月日が重なったに過ぎないが、本課題には双方の法律は影響を与え、最新法律に即して現状がどのようになっていくかを注視し分析することが必要である。従って、これらの法律について熟読することがまず必要であり、実際の運用についての調査は8月に行う予定である。3月にフジャンドに行った時には、法律が施行されてまだ2か月であり、春以降に出稼ぎのシーズンがやってくるのでどうなるか分からないといった声をインタビューで多数聞いた。 ロシアにおいても、労働移民の数は法律が施行されたことによって減ってはいるが、今後どのような方向に進んでいくのかは不透明であるという。 また、社会保障に関する法律が施行されたことによる、高齢者介護への影響や変化についても8月に社会保障委員会、介護を行っている会社、および実際に介護を受けている人あるいはその家族へのインタビューを予定している。ただ、最終年度であるために時間的な制限もあり今回だけの調査ですべて明らかになるかどうかについては不透明である。 最新の情報を盛り込むまでの研究成果について、ICCEES(中欧・東欧研究国際協議会)幕張世界大会で2015年8月3-8日に報告を行う予定である。また、9月初旬に予定されているロシア極東学術会議においても研究成果を発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に行った現地調査で予定していた期間より短くなったために諸経費で残額が出たため。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度となるために学会発表が多数予定されているためにそのために使用する予定である。
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