最終年度である平成28年度においては、初年度に実施した公益訴訟についての訴訟形式・内容という観点からの整理、二、三年度目に実施した、ケースの選定と他国との比較を前提に、研究発表、研究交流を通じての発見および知見のクロスチェック、再吟味作業を行った。具体的には以下のとおりである。第一に、公共サービスや環境保護の展開に大きな影響を与えたケースを選定して分析し、その成果の重要な部分を「公益訴訟の展開と公共サービス」(佐藤創・太田仁志編『インドの公共サービス』(2017年2月、アジア経済研究所、235-254頁に掲載)にまとめた。第二に、司法の独立に関わるケースを含むインド公益訴訟の社会的意義の歴史的変容についての成果もまとめ、アジア政経学会秋季大会にて(2016年11月19日)、「インドにおける司法積極主義、立憲主義、開発主義」と題して発表を行った。 4年間取り組んだ本研究では、公益訴訟を通じたさまざまな司法判断や運動がどのような影響をインド社会に具体的に及ぼしてきたか、学際的な地域研究を試みることを目的としていたが、その観点から、本研究を実施して明らかになった重要な点は、以下の三点であると考えている。第一に、社会的弱者層の権利を保護するために開始された公益訴訟も、その内容は弱者の問題から社会一般の公共的な問題に力点が移動しており、さらに社会的弱者の利害に反する判断が下される例もとくに2000年代から散見される段階にきている。第二に、公益訴訟は、環境問題や公共サービスの問題において、経済的合理性に加えて、環境権や生命に対する権利などの内実を充実させる権利アプローチと呼ぶべき機軸が重要な役割を果たす基礎の一つとして機能してきている。第三に、公益訴訟の制度的、組織的基礎は強いものであり、今後も公益訴訟は重要な役割をインドの社会発展において果たすと考えられる。
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