研究課題/領域番号 |
25360044
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
沢山 美果子 岡山大学, 社会文化科学研究科, 研究員 (10154155)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 近世 / 性 / 生殖 / いのち / 家族計画 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近世社会の人々は性と生殖という制御しがたい身体の内なる自然とどう向き合ったのか、その具体相を、武士、農民といった身分や階層による違いや、そこでの男と女の関係、胎児、赤子のいのちをめぐる観念、さらに避妊も含めた性と生殖をコントロールする方法や民間医療などの生活文化も含め歴史具体的に探ることにある。それは近世の夫婦、家族には、家族の未来のために性と生殖をコントロールすることでいのちを繋ぐという「家族計画」意識はあったのか、「家族計画」を軸に、近代への展開も視野に入れ、近世社会の性と生殖、いのちをめぐる問題に多角的に接近する試みでもある。 今年度は、4月にウィーン大学で開催されたヨーロッパ社会史学会でのセッション“Deaath before Life”において、前年度までの研究成果を踏まえた“Concept of Fetuses and infants in the Tokugawa Period”と題する近世のいのちをめぐる観念に関する報告を行った。また、松江市史編纂室の協力を得て、松江城下を中心に史料収集を行い、松江城下の町人、新屋太助の日記である「おぼえ日記」、松江藩領の「池尻家御用留」の解読、分析を行い、とくに子どもの生育に関する記述、遊女も含めた女に関する記述、近世の赤子の命綱であった乳を巡る乳母奉公に関する記述を中心に分析を進め、さらに前年度から進めている武士の日記の分析も含め、『岩波講座 日本歴史 近世5』(2015年7月刊行予定)所収の論文「近世の性」にまとめた。また、その過程で性と生殖をめぐる重要な史料として水戸藩領内の中崎家文書があることがわかり、所蔵館である茨城大学図書館での資料収集、撮影もおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
その理由は、下記の二点にある。 1、国際学会での報告により、ヨーロッパ諸国に関する報告との比較の機会を得ることで、とくに避妊の問題を視野に入れることの必要性が明確となり、近世日本の長期授乳と避妊に関わる乳の問題に関する資料収集も行うなかで新たな史料を発掘できたこと。 2、「近世の性」執筆の過程で、近世の性と生殖の歴史的特質を明らかにするためには、今まで理念的には、「家」における「生殖」のための性、「産むための性」の対極にある「快楽」としての性、「消費のための性」とされてきた「遊所」の遊女たちの性と生殖をも視野に入れた分析が必要であることが明確となり、その点に関しての史料収集、分析をすすめることができたこと。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、次年度が本研究の最終年度にあたるため、研究成果の取りまとめに重点を置く。その研究成果の一部は、大阪歴史科学協議会発行『歴史科学』、『乳と子どもの江戸時代』(吉川弘文館、歴史文化ライブラリー)に執筆予定であるが、そこにまとめる過程で、学会や共同研究会で報告を行い、多様な分野の研究者からの批判、コメントを仰ぎ、研究課題のまとめをおこなう。そこでは、近世社会の少子化と性・生殖、その背後にある農民、町人、武士の「家」と性と生殖の重層性、性と生殖をめぐる生活文化など、多様な角度から近世の人々の性と生殖への期待と不安、いのちをめぐる観念やいのちを繋ぐための営みを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度最後の旅費支出を多く見積もってしまっていたために、実支出額との差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度に当たる今年度は、研究成果の取りまとめに重点を置くため、最終の史料調査、また、研究成果を報告するための研究会への出張旅費、研究成果の印刷費などに、おもに使用する。
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