研究課題/領域番号 |
25360053
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
水戸部 由枝 明治大学, 政治経済学部, 准教授 (20398902)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 西ドイツ / 性科学 / 性教育 / 性行動調査 / ハンス・ギーゼ / ケーテ・ストローベル / プロ・ファミリア |
研究概要 |
西ドイツ社会国家は、核家族、性別役割分業の推奨、男性単独稼得者モデルなどの特徴をもつ近代家族の再建を理念としていたが、1960年代に入ると、法律や伝統的な性道徳やイデオロギーを通じては、結婚・子育てからの逸脱、家族の多様化、若者たちの「性の解放」を堰き止められなくなった。では、結婚・子育て・家族・性道徳に関する見解はいつ頃からどのように変容したのか。そして公権力側はどのような対応に迫られたのか。 2013年度は「西ドイツ社会国家にみるライフコース・家族・性規範の変容」という研究課題のもと、以下3点を明らかにした。第一に、ドイツ連邦統計局発行の『統計年報(1952-90年)』とアレンスバッハ研究所による世論調査報告書(1947-83年)に基づき、60年代前半からの婚姻数の減少・離婚数の急増・出生数と一世帯あたりの子ども数の減少、60年代半ば以降の婚外子数の増加、そして70年代半ば以降の平均初婚年齢・平均初産年齢の上昇と男女平等意識の高まりを確認し、第二に、産児制限に関するアレンスバッハの世論調査の結果と、性科学研究の先駆者ハンス・ギーゼの研究、特に「大学生の性行動」調査を通じて、60年代半ば頃から10代後半を含める若者たちの間で売買春と同性愛が容認され、ピルをはじめとする避妊や婚前交渉など「新しい性道徳」が広がったこと、第三に、69年に保健省が発行した性教育本『性の図解書』を巡る議論から、個人の権利を保障すると共に法や制度を通じて私的領域を管理しようとする国や州の「新しい性道徳」への対応について考察し、公権力側にも伝統的な性道徳に捉われない、現実に即した性教育のあり方を模索する動きが始まったことを明らかにした。そして、西ドイツ社会国家が揺らいだ重要な要因の一つは、共通の性教育方針を見出せず、「新しい性道徳」の広がりに十分対応できる政策を打ち出せなかったことにある、と結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特になし
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は、公権力側の協力のもとで産児制限の啓蒙活動を続けてきた「プロ・ファミリア」と、同組織の創設者でハンブルク大学教授であったハンス・ハルムゼンの活動内容を調査することにより、西ドイツ社会のジェンダー秩序の揺らぎに対する公権力側の対応を明らかにする。その際、同組織がマーガレット・サンガーによって設立された「国際家族計画連盟」の一支部であったこと、またハルムゼンがナチ時代に障害者の断種を組織していたことに言及し、戦前の優生思想と戦後の産児制限を巡る議論との連続性・断絶性を浮かび上がらせる(コブレンツ連邦公文書館にて資料収集済み)。 続く2015年度は、戦後復興期、公権力側は国家の立て直しを図るため、近代家族の再建、セクシュアリティの統制にどのように取り組んだのか、またその取り組みはその後東西ドイツにどのような影響を与えたのかについて考究する。この時代、一方で、占領軍兵士による強姦、占領軍兵士とドイツ人女性の関係、性病の蔓延の問題が、他方で、父親か母親あるいは両親ともに不在の家庭、離婚の急増、男性不足による婚姻率の低下、占領軍兵士との間に生まれた子どもを抱える母子家庭といった非標準的家族の広がりがみられ、これらの問題に対処することは、戦後の近代家族の再建にとって最重要課題であった。こうした中、公権力側は母子家庭を近代家族から逸脱した存在とみなし、占領軍兵士の慰安婦に対しては、一般のドイツ人女性を守るために欠かせない存在と捉える一方、性病の蔓延、性的堕落による社会秩序の揺らぎ、人種主義を理由に、厳しく管理した。本研究ではこれらの実態を、アメリカ占領軍総司令部が設置されたバーデン=ヴュルテンベルク州のハイデルベルクとマンハイム、世界最大規模のアメリカ軍基地が存在するラインラント=プファルツ州カイザースラウテルン、ソ連占領地区であったザクセン州ドレスデンを事例に明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
論文執筆時間を確保するため、国内の研究会・学会参加のための出張を控えるとともに、ドイツでの資料収集・現地調査期間を1週間短縮せざるを得なかったため。 2014年度と2015年度の研究会・学会参加費(国内)および資料収集・現地調査費(海外)として計上する。
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