本研究の目的は、海運界における現在のジェンダー形成の状況を国際的に比較分析し、我が国の海運界で男女共同参画を実現させるにはどうするべきかを指摘することである。地域的には欧州・米大陸・アフリカ・オセアニア・中東・アジアというグローバルなレベルで、また業種としては船員に限らず陸上勤務も含めて、船会社はもちろんのこと、船舶管理・金融・保険・物流・教育・法律など、いわゆる「海事クラスター」と呼ばれる幅広い分野における海運業界への女性の進出状況について国際的に比較分析した。この年は我が国の海運界についての調査が中心であった。調査により、次の2点を提言したい:①女性船員の海運業界に対する理解が必要である。女性自身が、海運業界は元々男社会であり、現在もなお、船員はもちろんのこと、陸上勤務においても、男性が大多数を占めている事実を理解する。そもそも、海運業界が男社会として発展してきたという背景には、労働環境・仕事内容が女性よりも男性に適していたことが考えられる。また、ある集団が存在すれば、その集団は多数派に合う傾向を示すことが一般的であり、その傾向は多数派が多ければ多いほど顕著に表れるであろう。特に海事産業は、大多数が男性であるため、形成されている環境は男性に適したものとなると考える。②事業者の自社に合った採用と女性に対する先入観を排除することが必要である。女性に対する先入観が女性の海運業界でのさらなる発展の妨げとなっている場合がある。実際に共に同じ現場で働かないとわからない部分もあるが、一部の事業者だけでなく業界全体が女性を受入れる体制をとることが重要であると考える。 さらに、本年度はWISTA Japanとしての活動も活発化させた。船会社だけではなく、海事関係の保険会社、法律関係など、領域を拡大してメンバーの増加を図り、海事産業における女性の進出に関するセミナーを実施した。
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