研究課題/領域番号 |
25370001
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 茂 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50287950)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 現象学 / フッサール / 田辺元 / 日本哲学 / 媒介 / 明証 / 現実 |
研究概要 |
第一に、田辺元のテキストの体系的研究を進め、とりわけ「媒介」概念とその射程に関して検討を行った。今年度は中期田辺哲学の「種の論理」関連論考の検討を集中的に進め、「絶対媒介」と「自己疎外」論、それを背景とした国家論の射程と問題点について、踏み込んだ研究と解釈を行った。これをもとに、後期哲学の入り口と言える「懺悔道」期の思想への転換がなぜ生じたのかについても考察し、今後の研究の方向性を定めることができた。その成果は『思想』(岩波書店)誌に連載の形で発表する予定である。 第二に、上記の作業と平行して、フッサールの「明証」「現象」「現実」概念の媒介論的解釈を、フッサールのテキストに即して準備的に進めた。この研究により、田辺の「絶対媒介」および「自己疎外」の発想が、フッサールの明証概念および現象概念を批判的に解釈する際に大いに有益であることが明らかになった。これにより、フッサールの現象学的思考を媒介論的に解釈するという本研究の課題にとって基軸となるような重要な見通しが得られた。 第三に、板橋勇仁氏(立正大学)、廖欽彬氏(台湾中央研究院)、竹花洋佑氏(大谷大学)という三人のゲストを招いて「田辺哲学シンポジウム」を北大で開催した。また、コペンハーゲン大学で行われた北欧現象学会、同志社大学で行われたフランス大学協会(IUF)主催のシンポジウム「西洋哲学と日本思想の対話」等において本研究の基本的アイデアを発表し、討議を通じて、本研究の田辺哲学解釈および現象学への適用に関する批判的吟味を行うことができた。 第四に、すでに研究協力関係にある西郷甲矢人氏(長浜バイオ大学、数理物理)と対話・討議を継続し、現象学的「明証」概念や媒介論的な現象学解釈に関して、数学および物理学の最新の観点から批判的吟味を行った。西郷氏とは、二本の共著論文をすでに大方完成し、三本目の共著論文を協同で執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画は、概ね達成することができた。 第一に、田辺元のテキストの体系的研究に関しては、中期田辺哲学における「種の論理」の研究が予想以上に進展し、本質的に進化した理解と解釈を達成することができた。「懺悔道」期の思想に関しては、「種の論理」から「懺悔道」への転換がなぜ生じなければならなかったのか、について決定的な洞察が得られた。ただし、「懺悔道」期の媒介思想そのものの詳細な分析はまだ十分とは言えず、次年度に継続して進める必要がある。 第二に、フッサール現象学の媒介論的解釈に関しては、「明証」概念の媒介論的解釈が大きく進展した。この点について、コペンハーゲン大学で行われた北欧現象学会等、複数の学会で発表を行い、本研究の基本アイデアについて、多くの研究者から好意的な反応ならびに有益な批判的コメントを得ることができ、今後の展開に大いに資するところがあった。「間主観性」概念の媒介論的解釈については、テキストに即した解釈の試みを今後さらに継続して進め、学会等での討議により、さらに批判的に吟味していく必要がある。 第三に、「田辺哲学シンポジウム」の開催が実現し、きわめて有益で活発な議論が展開された。提題者全員の希望により、次年度以降も同シンポジウムを継続して開催することが決まった。田辺哲学研究を活性化するという目的はかなりの程度達成されたと考えられる。 第四に、学際的な研究協力と本研究の多角的な批判的検討については、西郷甲矢人氏(長浜バイオ大学、数理物理)との共同研究が飛躍的に進展した。同氏とは1,2週に一回インターネット電話とファイル共有システムを介して共著論文の執筆を進め、2本の共著論文原稿を仕上げることができた。ピート・ハット氏(プリンストン高等研究所、物理学・学際研究)との対話に関しては、同氏のスケジュールの都合もあり、今年度はあまり進展しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、基本的に研究計画通りに順次進めていく予定である。平成25年度には、幾つかの点で予想以上の進展が見られたが、田辺元の「懺悔道」期の媒介思想、フッサール現象学「間主観性」論の媒介論的解釈について、十分な検討ができなかったので、この点については平成26年度に継続して進める予定である。平成25年度に行った「田辺哲学シンポジウム」は、これまで田辺哲学についての集中的な専門的討議の場がなかったということもあり、提題者全員が予想以上の成果を得ることができたが、そこでの合意により、引き続きこの「田辺哲学シンポジウム」を毎年開催することになった。このことは、本研究の進展にも大いに資することになると思われるので、ぜひ実現を目指したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
外国語論文の完成が遅れたため、予定していた校閲費を使用しなかったことにより、若干の経費繰り越しが生じた。 外国語論文校閲費は次年度に使用する予定である。
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