今年度は、媒介論的現象学の構想をあらためてまとめなおし、雑誌『ハイデガー・フォーラム』に発表した。 個別の研究テーマに関しては、まず第一に、フッサールと田辺元の時間論について、媒介論的な観点から分析を行った。時間論に関する成果の一部は、雑誌『日本の哲学』に論文として発表した。 第二に、媒介論的な観点から、自我の構成、間主観性の構成を再解釈する作業に従事した。自我および間主観性を媒介の働きそのものへと還元していくことにより、これらを具体的・現象学的に分析することを試みた。こうした成果の一部を Taiwan Journal of East Asian Studies に査読付き論文として発表したほか、三本の関連論文を発表した。 第三に、田辺元の哲学において論じられている「悪の媒介性」について詳細な分析を行った。田辺の考えによれば、善と悪を無差別化することなく、悪を悪のままで媒介へと転化することにより、宗教的救済が成立する。この宗教的救済は、現世的な共同的実践において具体的に実現される。この点については、2015年8月に開催した「田辺哲学シンポジウム」で発表したほか、『思想』誌上に連載中の論文において発表する予定である。また、悪の媒介性への視点が欠落したことにより、田辺の国家論が問題的な形態へと変質したという点について論じた論考を、同じく『思想』誌上に発表した。 第四に、Dan Zahavi 氏、Reiner Schaefer 氏、Tom Froese 氏を招聘して講演会やワークショップを行うことにより、本研究課題に関連する議論を深めることができた。 第五に、上記の成果を学際的見地から検証するために、Piet Hut 氏(物理学)、西郷甲矢人氏(数学)、土谷尚嗣氏(神経科学)との共同研究を行い、その成果として、土谷氏・西郷氏との査読付き共著論文を一本発表した。
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