研究課題/領域番号 |
25370006
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
今村 健一郎 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (50600110)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジョン・ロック / 道徳的義務 / 規範性 / 自然法 / 主意主義 / 刑罰 |
研究実績の概要 |
本年度は、ロックにおける道徳的義務の本質と根拠に関する検討を行った。より具体的には「なぜ私は道徳規則に従うべきか」という一人称的問い(いわゆる「規範性の問い」)に対してロックはどのように答えうるかを考察した。道徳的義務の本質と根拠に関して、ロックは神学的主意主義の立場から説明を与えている。しかしながらその説明は、道徳性の基礎である神の善性を説得的に示しえておらず、十全とは言い難い。だが、そのことが却って道徳や道徳的義務がもつある側面を照らしているように思われる。われわれは神を含む他者一般の善性を確実に知ることはできないし、他者への疑いを全く除去することもできない。それでもわれわれは、自らが道徳に従うとき、あるいは、他者に対して道徳に訴えるとき、たとえ無意識であるにせよ、他者の善性を信じ、他者の善性に訴えている。そのような側面を道徳的義務に関するロックの議論は照らし出していると思われるのである。他者の善性を全く信じえないところに道徳は成立しえないはずである。道徳的義務に含まれる「他者の善性への信頼」の契機が、ロックの道徳的義務論の「欠陥」をつうじて、却って浮かび上がってくるように思われるのである。 ロックによる道徳的義務の探究は、「神」や「法」などの概念の分析に依拠しつつも、それだけでなく、実社会に暮らす人びとの観察をも用いるものである。その観察からの彼の洞察(それは主に「意見ないし評判の法」に関する記述の中に見られる)は、後世の道徳感情論にも通じうる内容を有している。そして、その洞察の中でロックが暗に示唆した無道徳者の存在は、ロック刑罰論の解釈に新たな展望をもたらす鍵となりうるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来の予定では、本年度は本研究課題の最終年度(3年目)にあたるのだが、研究代表者の健康上の理由により研究に遅れが生じたため、期間の延長を余儀なくされた。このことにより、(3)と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はロックの所有論と共に刑罰論をひとつの柱としている。刑罰は言うまでもなく犯罪に対する主要な処分の方法である。しかしながら刑罰は犯罪に対する唯一の処し方ではない。近年注目される「修復的司法」においては、加害者への刑罰ではなく、加害者から被害者への謝罪と賠償こそが犯罪への対処における本質的要素となる。ロックは刑罰の正当化根拠のひとつに賠償(犯罪被害者に対する賠償への道を開くこと)を挙げている。彼はまた、戦争状態を終結させる契約にも言及しており(『統治論』第2論文第24節)、それによって加害者と被害者の和解の可能性を示唆している。このようなロックの刑罰論は今日の「修復的司法」へと連なりうる射程を有していると本研究は予想する。ロック刑罰論が有していると予想されるこのような可能性を探究すること、それこそが本研究課題の今後の推進方策である。具体的には以上の探究の成果を研究論文として公表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の体調不良により、当初の研究計画からの遅れが生じた。そのため、予定していた研究成果発表のための国内旅費と図書購入のための物品に関して次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
設備備品費 400000円(哲学ならびに法学関連の図書購入費用) 国内旅費 100000円(国内学会での研究成果発表に伴う旅費)
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