本年度はロックの犯罪概念に関する検討を行った。ロックにおいても、犯罪が他者の所有権を侵害する行為(不法行為)であることは論を俟たない。しかし、ひとくちに所有権侵害といっても、その様態は軽微なものから重大なものまでさまざまであり、すべての所有権侵害が犯罪と見なされるわけではないだろう。となると、ではロックにおける犯罪とは何か、ということが問題となる。しかしながら、ロックは必ずしも犯罪概念を明確に規定してはいない。 ロックが念頭に置く犯罪とは、強盗などの直接的な暴力をもってする所有権侵害であり、したがってそれは自然法を否定する行為である。そして、そのような犯罪に及ぶ者を、彼は人類に対して戦争を仕掛ける者と称している。ロックはこのように犯罪と戦争を類比的に捉える(あるいは同一視する)のだが、その一方で、犯罪には軽重の度合があることをも認めている。では、犯罪の軽重は何に照らして決定されるのか。この点をロックは明らかにしていない。このように、ロックの発言だけに依拠していたのでは、彼の犯罪概念を明確なかたちで再構成するのは困難である。 かくして本研究は、ロックの犯罪概念を再構成するための、いわば補助線として、ヘーゲルの犯罪概念の検討を行った。というのも、ヘーゲルこそが、ロックが明確に与ええなかった犯罪概念の規定を与えているように思われるからである。そのヘーゲルの規定によれば、犯罪とは「レヒト(法権利)をレヒトとして侵害する暴力」である。つまり、犯罪とは、個別特殊な権利の侵害であると共に、それを通じて法自体をも侵害する行為であるとヘーゲルは理解するのである。ヘーゲルの犯罪概念および刑罰論については、論文「ヘーゲルの刑罰論」(愛知教育大学研究報告・人文・社会科学編、第66輯)において、その研究成果を公表した。
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