力能は「必然性」と「可能性」という両方の真理様相に関連づけられているので、少なくとも第一次近似的には力能的様相は一種の必然性であると考えるべきなのか、それとも可能性と考えるべきなのか、ということが問題となりうる。また、様相論という観点からすると、力能と形而上学的様相の関係、すなわち、力能に伴う様相は形而上学的様相の一種なのか、あるいは逆に、形而上学的様相を力能的様相に還元しうるのか、それとも両者はまったく別種のものと考えるべきなのか、ということも問題として浮かび上がる。 力能と様相にまつわるこの二つの問題は、実体的対象の存在論的性格について考察するうえでいずれも重要であるので、現代の代表的実体主義者と考えられるジョナサン・ロウやバーバラ・ヴェターによって提示された議論に着目しながら、その二つの問題について検討した。その結果、次のような結論を得た:
力能は、刺激を前件として発現を後件とするような反実条件法によってではなく、発現のみによって個別化されるべき性質であり、その様相的本性は、反実条件法によって規定される条件的必然性ではなく、その発現に向かっているという意味での、程度を伴う一種の可能性としての潜在性である。そしてその潜在性は、広い意味での形而上学的可能性のなかの独特の一種として捉えられるべきである。 また、これに伴い、原因としての刺激とそれが直後にもたらす結果としての発現という、ふたつの連続するできごとを因果項とする、いわゆる「因果のtwo-eventモデル」を、原因としての実体がその因果的力能を行使・発現するプロセスによってその力能の受容者が変化するプロセスを同時的に結果としてもたらすという、いわば「因果のthings-processモデル」に変更していくことが求められる。
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