本申請研究の目的は、(1)道元の思想構造を、その独自の世界把握を軸に『正法眼蔵』等テクスト内在的に解明する (2) 大乗仏教思想史という観点から道元の思想的意義を多角的に検討し解明する という2点である。この2点は、まず(1)を基盤としつつ、(2)が遂行されるという関係であり、さらに大乗仏教思想史の観点からの研究の成果が(1)のテクスト内在的読みを深化させるという相互相依的関係で両者の同時遂行により大きな成果が期待される。 この2点を実現するための研究計画・方法として、(1)については、道元の思想構造の文献的解明のために不可欠な、『正法眼蔵』本文の注解を、特に大乗経典との繋がりの深い「摩訶般若波羅蜜」「諸法実相」「仏性」「海印三昧」「法華転法華」「観音」巻等を中心に行う。(2)については、空海や法然、親鸞など日本の代表的な仏教者の思想との大乗仏教経典受容における比較を行い、道元の仏教思想における位置づけを検討する。また、儒教をはじめ日本の伝統的諸思想と道元の思想とのその思惟方法における比較検討も行う。 今年度は以上のような研究計画を具体的に遂行するために、1) 平成25~27年度に行った『正法眼蔵』諸巻についての本文校訂、諸異本の校合を総括した。2)平成25~27年度に行った中国禅の典籍の調査収集を総括した。3)上記諸巻の全文注釈を、用例参照、文体の類型化など踏まえ総括した。4)以上の校訂、註釈、解釈作業に基づき、道元の思想的構造を解明した。5)1)~4)を前提として、大乗仏教思想史上における道元の位置づけの作業を続行した。 6)1)~5)の思想的成果について学会で口頭発表、論文発表、研究報告等を行ない、総括として『さとりと日本人』(ぷねうま社、2017年2月、266頁、単著)を刊行した。また、海外で開催された研究集会で口頭発表を行った。
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