2015年度の課題は、ブランダムとホネットの歴史的合理性概念をハーバーマスのコミュニケーション理論と接合し、ヘーゲル承認論から自然化された認識論のコンセプトを提示することであった。論文「真理と規範――カント的プラグマティズムからヘーゲル的プラグマティズムへ――」では、ハーバーマスの真理合意説とブランダムのデフレ主義的真理論とを対比することで、真理概念を軸にブランダムにおいてプラグマティズムとヘーゲル主義が密接に結びついていることを明らかにした。「知識の社会性と科学的認識――科学批判としての批判理論の再構築のために」(平子他2016所収)では、ブランダムの語用論を科学認識論に拡張する可能性を提示し、これによってハーバーマス以降科学論から後退していた批判理論を再び科学批判へと向ける可能性を示すとともに、ヘーゲル主義を自然批判として提示した。 10月15日に一橋大学で開催した国際会議「ドイツ古典哲学の新段階」では、ドイツからB・ザントカウレン氏(ボーフム大学)、国内から4人の研究者をお迎えし、日独双方の最先端のドイツ古典哲学研究について報告がなされ、有意義な意見交換の場となった。3月19日に一橋大学で開催した研究会議「ドイツ観念論と自然主義の再検討」では、国内のブランダム研究者、ドイツ古典哲学研究者4名に報告をいただき、大河内も「習慣と制度――ヘーゲルにおける第二の自然」と題する報告を行った。「第二の自然」概念を軸に、ヘーゲルの相互主観的な認識論を自然主義的に理解する方向性を確認するとともに、ブランダムの議論においては、合理的存在としての人間を自然史的過程の中で捉える視点が欠けていること、この点においてハーバーマスの議論が貢献することができることを確認することができた。
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