研究課題/領域番号 |
25370014
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
秋元 ひろと 三重大学, 教育学部, 教授 (80242923)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アリストテレス / マルブランシュ / ヒューム / 機会原因論 |
研究実績の概要 |
本研究は,西欧近代におけるアリストテレス主義の継承と批判という観点から,ヒュームの知識論の再検討と再評価を行うことを目的とする。 研究2年目の26年度は,マルブランシュとヒュームの因果論の比較検討という観点から,17世紀から18世紀にかけての大陸とイギリスにおいて,アリストテレス主義の継承と批判がどのように行われたかを明らかにした。 ヒュームは,その因果論において,原因のもつ効力が位置づけられる場所について,「原因それ自体」「神」「両者の協働」という三つの可能性を挙げて,そのいずれをも退けている。「原因それ自体」とはアリストテレスの説,「両者の協働」とはトマスをはじめとするスコラのアリストテレス主義者の説,「神」とはマルブランシュの説を指す。マルブランシュは,質料・形相説を基盤とするアリストテレスの原因論,ならびにアリストテレス主義者の協働原因論を退けて神のみが真の原因であるとして,被造物は機会原因に過ぎないとする機会原因論を唱えたのである。これに対してヒュームは,マルブランシュのアリストテレス主義批判を継承しつつも,神にも真の原因として作用する効力を認めず,独自の因果論を展開した。それは,因果関係を因果推論の問題として捉えるという彼の知識論を前提とするものであった。すなわち,マルブランシュが原因と結果のあいだの必然的結合を,いまだ対象世界に成立する事柄と見なしていたのに対して,必然的結合は対象世界のうちにではなく,因果推論を行うという仕方で,対象世界に因果関係を設定するわれわれ人間の精神のうちに場所をもつとしたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルブランシュとの比較を通じて,アリストテレス主義批判という観点からヒュームの因果論の特徴を明らかにするという計画をおおむね達成することができた。 また研究を通じて,スコラのアリストテレス主義の因果論の基本性格を確認することができたほか,近代においてなおアリストテレス主義に足場を求め続けたロックとの比較が有効であるという今後の研究のヒントとなる着想も得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である27年度は,過去2年間の研究成果を踏まえて,因果論を中心とするヒュームの知識論を,アリストテレス主義批判という観点から解釈して,その特徴を明らかにする研究の総仕上げを行う。 具体的には,26年度の研究を通じて得たロックとの比較という着想を手掛りとして作業を進める。すなわち,アリストテレス主義を批判して,原因としての効力を被造物からいわば剥奪し,それをもっぱら神のみに帰したマルブランシュに抗して,被造物に原因としての効力を認めて,機械論の立場からではあるがアリストテレス主義にとどまり続けたロック。神にすら原因としての効力を認めず,マルブランシュのアリストテレス主義をさらに先鋭化させてロックと対決したヒュームという三者の関係を整理することによって,ヒュームの立場を明確化して取り出し,その意義を明らかにする。
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