本研究は,西欧近代におけるアリストテレス主義の継承と批判という観点から,ヒュームの知識論の再検討と再評価を行うことを目的とするものである。 平成26年度に,マルブランシュとの比較を通じて,アリストテレス主義批判という観点からヒュームの因果論の特徴を明らかにしたことをうけて,研究最終年度にあたる平成27年度は,バークリやロックとの比較という観点を新たに取り入れることによって,以下のように,ヒュームの位置づけを明らかにすることができた。 すなわち,バークリが,マルブランシュの立場(アリストテレス主義を批判して,原因としての効力を被造物からいわば剥奪し,それをもっぱら神のみに帰した)を基本的に受け継いだのに対して,実体を認識論の中心主題としたロックは,被造物に原因としての効力を認めて,機械論の立場からではあるがアリストテレス主義にとどまり続けたこと。それに対して因果関係を認識論の中心主題としたヒュームは,神にすら原因としての効力を認めず,マルブランシュやバークリのアリストテレス主義批判を先鋭化させてロックと対決したこと。 また,ロックがアリストテレス主義を継承したのに対して,バークリとヒュームはそれを批判したという違いは,イギリス経験論を単純にロック,バークリ,ヒュームのトリオの仕事と見なすことはできないということでもあり,イギリス経験論の哲学史の書き換えという今後の研究に向けての着想も得ることができた。
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