研究課題/領域番号 |
25370015
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨田 恭彦 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30155569)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 観念 / 物そのもの / 経験的対象 / 知覚表象説 / 直接実在論 / 粒子仮説 / 観念論 / 志向性 |
研究概要 |
平成25年度は、ロックにおける「知覚表象説」的契機(三項関係的認識論の枠組み)と「直接実在論」的契機(日常的・二項関係的観点)との関係を再検討し、観念本来の自然主義的論理空間の重層構造を再確認することから研究を開始した。 日常的に「物」と見なされているもの(これを「経験的対象」と呼ぶ)の向こう側に新たな粒子仮説的な「物そのもの」を措定することによって、経験的対象は、心の内なる「観念」として、他のすでに「内的」とされてきたものとともに「心の中」に位置づけ直され、それによって物そのもの/観念/心からなる三項関係的枠組みが構成される。この基本的な見方をより明確にするため、日常的にすでに「内的」とされているもの、例えば痛みの感覚や狭義の心像と、経験的対象が身分を代えて観念とみなされるようになったものとの関係を、明確にするよう努めた。 平成25年度後期は、冨田の見解を理解する上で研究者にとってしばしば躓きの石となっているもの──すなわち、日常的な「物」を構成する要素的観念のうちからあるものを選んでそれらから新たな粒子仮説的「物そのもの」の「観念」を作るという言い回しが、物そのものと観念とを峻別するロックの基本的立場とどう整合するかという問題──について、その答えを明晰に示す方途を探った。ロックが「観念」を広狭二義に用い、「物そのもの」ですら「観念」とする場合があることをどのように捉えるかという、これまで十分に検討されてこなかった問題が、ここではとりわけ重要となる。バークリの観念論とは異なる意味ですでにある種の観念論的な性格を示していたこのロックの立場を十全に理解するには、いわゆる「志向性」という、その論理を十全に把握することの極めて困難な現象に立ち向かう必要がある。25年度後期の研究はこの志向性の問題に特に重点を置き、その視点からロックをどう読むかにつき一定の成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロックにおける知覚表象説的契機と直接実在論的契機との関係を捉え、『人間知性論』の中に繰り返し見られる粒子仮説的物そのものと経験的対象との間の同次元的移行関係の論理を明確にするためには、志向性の視点からの解明が必要である。この視点からの解明につき、一方では志向性の古典であるブレンターノとフッサールの見解、さらにはヨーロッパ中世のintentio論の読み直しを進めるとともに、他方ではそうした古典的見解の担い手たちが捉えようとした心と志向的対象との全同次元的二項関係を念頭に置いたロックの読み直しを進め、その成果につき海外の専門家と意見交換を進めるに至っている。現在、その意見交換は継続中である。かかる理由から、「研究の目的」の達成度については、「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでおり、申請時の方針に変更はない。 平成26年度については、上記の「志向性」の問題を引き続き扱うとともに、ロックに先行して17世紀観念説の原型を与えたデカルトの見解を取り上げ、17世紀の自然主義的観念説の原型が持つ論理を、可能な限り明晰に再提示するよう努める。その場合に重要になるのは、デカルトの自然学の著作と第一哲学の著作の関わりである。デカルトは公式的には第一哲学(形而上学)をもって自然学の支えとし、第一哲学に自然学的論理を持ち込まない反自然主義的・基礎づけ主義的立場を採っているが、それにも拘わらず彼の第一哲学がどのような意味で「自然主義」と言えるのかを、彼のさまざまな言説を基に明らかにするよう努める。 以上の成果を踏まえて、平成27年度以降、さらにバークリとカントの論理の解明に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
書籍価格の高騰により、志向性関連図書の購入予定費につき、一部、次年度助成金と合わせて使用するのが合理的と判断されたため。 上記理由により生じた次年度使用学13,006円については、次年度助成金と合わせて図書購入に充てる。
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