本年度は、これまでの研究成果がどのような人間観の変更を求めることになるかを検討した。 本研究のこれまでの研究成果は、次の通りである。西洋近代観念説は、復活した原子論(粒子仮説)もしくはそれに類する自然科学上の仮説的アプローチを基盤として、外なる物そのものと内なる観念との区別に基づいて成立した。それは、その限りにおいて、自然科学を基にメタ自然科学(形而上学)的考察を進めるという、「自然主義」的営みであった。こうした特徴を持つ西洋近代観念説は、その創始者であるデカルトにおいては、学問を第一原理から構成されるべきものとする基礎づけ主義的な見方と接続していたが、ロックにおいては、そうした性格を持たないより整合的な自然主義的観念説としてその形態を整えることになった。ロック以降、バークリやヒュームやカントは、それぞれの仕方でこの自然主義的観念説の枠組みを解体する。バークリは物そのものを廃棄することによって観念論(物質否定論)を成立させるが、それは観念を内的なものとして位置づけるのに不可欠な物そのものを否定するという、矛盾した振る舞いであった。ヒュームは、この物そのものを懐疑的に見ることにより、バークリとは異なる仕方で自然主義的枠組みを歪めた。またカントは、表象が内的なものとして扱われるために不可欠な物そのものを認識不可能な物自体とするとともに、われわれの認識の基本的枠組みの歴史的変更を容認しない、硬直した認識観・人間観を前面に出すことになった。 こうして、バークリからカントに至る営みが観念説の自然主義的枠組みを歪めるものであったことが確認されると、デカルトやカントに見られる硬直した学問観がわれわれの知的営みの実際とはかけ離れたものであることが明確となり、信念のネットワークを必要に応じて編み直しながら生きていくものとして人間を捉えようとする新たな人間観が前面に出ることになる。
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