平成27年度においても、ハイデガー・フォーラム、関西ハイデガー研究会を中心に、国内のハイデガー研究者と連携しつつ、ハイデガーとユンガーの視点から、現代のニヒリズムのあり方と、その中での人間存在と労働の関わりの解明という課題を遂行した。この成果の一端は、愛媛大学法文学部人文学科の「風景研究会」において「ニヒリズムの風景-ユンガーとハイデガーからの一考察」として口頭発表され、『愛媛大学法文学部論集人文学科編』第40号に発表された。 また、平成27年4月~6月の3か月間、ドイツのヴッパタール大学のP.トラヴニー教授の下で、ハイデガー全集第90巻『エルンスト・ユンガーへ』の翻訳、研究を進めた。この翻訳については、その全体を視野に収める段階に達している。 本研究課題では、ユンガーの「労働者(Arbeiter)」としての人間存在の把握が取り上げ、二つの世界大戦に象徴的に現れた、人間存在と労働のあり方の転換を捉えた。そこでは人間存在も物量戦の中へと動員され、ただ労働をなしうるもの、「労働者」としてのみ存在せしめられる、あるいは、労働者としてしか存在しえないものとして規定される事態が明らかとなった。そしてこれが、人間存在がそれ自身に固有の意味や価値を剥奪されて、ただただ外的な目的に資するという尺度でのみ測られ、規定される、ニヒリズムの時代の徴表として把握された。したがって、ハイデガーとユンガーのニヒリズムへの関わりを、ニーチェを参照軸としつつ解明していることが本研究課題のひとつの特徴となっている。 変質した「労働」のあり方は、人間存在そのものの意義を無化するものとなってきた。こうした「労働」の現代的あり方を解明するとともに、本来的なあり方へと転換することを目指した本研究課題の成果は、平成28年3月に報告書にまとめられ、ニヒリズムの転換への道として「自然(じねん)」というあり方が示唆された。
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