研究課題/領域番号 |
25370023
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
柏葉 武秀 宮崎大学, 教育文化学部, 准教授 (90322776)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 障害学 / 徳倫理学 / 倫理学 |
研究実績の概要 |
研究計画第二年度では、前年度研究で見いだされた課題に取り組んできた。前年度以降出生前診断に対する障害学陣営からの反論の内実を調査してきたところ、AschやWassermanの出生前診断と選択的中絶への批判には、障害者差別反対論が大きなの柱となっている。今年度は障害者の権利擁護運動が主張する障害者差別論の検討に費やされている。 なかでも注目したのは、障害の除去と障害者の権利擁護とは区別できるとの論理に基づいて出生前診断を肯定する論者へのAschらの批判である。AschとParensは障害者権利擁護運動は、たとえば妊婦の健康管理によって胎児に何らかの障害が生じるのを防ぐことを当然のように承認する一方で、胎児に障害があることを理由に中絶する行為を徹底的に批判する。つまり、彼らも障害と障害をもって生きる人々とを区別する論理を備えている。私の見るところでは、その根拠をなすのは正確な障害観だとAschらは考えている。Aschらによれば、障害あるいは障害者の生について偏見なく公平に知識を習得するならば、われわれはおおよそ社会モデルに即した障害観を獲得することができる。社会モデルに基づくならば、社会的環境を適切に整備していくことで障害に発する不便や障害者の不利益は減少していくのだから、障害児を産むのにためらう理由は現在想定されているよりはるかに少ないことになる。だが、今年度の文献調査では、このような障害者の権利擁護運動からの出生前批判、なかんずく社会モデルに基づく障害観の採用慫慂には、徳的の規範的主張が込められていることが判明しつつある。 今年度は、出生前診断と選択的中絶と障害者を不合理な抑圧から解放する政策との両立をうたうシンガーの議論に立ち返り、障害と障害者を区別する論理の射程を検討してきた。研究順序の変更もあって、学会出張と論文投稿は次年度に繰り越さざるをえない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査は順調である。学会発表にはいまだいたらないので、全体としては「おおむね順調」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の順序を若干変更し、出生前診断と選択的中絶にかかわる生命倫理学的考察を先行させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
台風接近のおかげで予定していた学会出張を連続してキャンセルしたのが大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
デスクトップPCの購入に充てる予定である。
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