研究実績の概要 |
研究計画最終年度においては、三年間の研究成果に基づき、徳倫理学の議論を踏まえながら障害学取り組んできた生命倫理学上の問題に一定の回答を試みた。'Selecting/Choosing Disiabilty'問題に関して現時点で最大の争点となりうるなのが、「障害児の選択的出生」をめぐる論争である。本年度は、ろう者のレズビアンカップルが、体外受精によってじっさいにろうの子ども授かった事例を集中的に検討した。 障害児の選択的出生に対しては、胎児に不必要な障害を負わせる不正な行為だと他者危害原理に依拠する批判がなされる一方で、障害者運動の側からは、障害を「危害」と決めつける発想そのものを問い直す再批判が投げかかけられ、状況は錯綜している。そこで、本年度研究において、「善き親」とはいかなるものか、あるいは妊娠・出産に関わる親のとるべき態度はどのような態度かを構想してこの論争に加わっている動向、とりわけ徳倫理学のアプローチをとるマクドゥーガル(McDougall, R.)の議論を批判的に吟味した。 マクドゥーガルは、「親としての徳(parental virtue)」を詳述するさいに障害児の選択的出生について主題的な関心を持ち続けている。マクドゥーガルはハーストハウスの理論に依拠して障害者の選択的出生を一度は親の徳に反する避難されるべき行為と断じておきながら、後に正当化する方略を探すべく苦闘してもいる。。本年度研究において、ハーストハウスの生命倫理関連の業績にも立ち返りながら、マクドゥーガルの立論が「人はいつ親になるか」を問いつめていない、すなわち親概念の時間的なあいまいさが残ると指摘し改善点を探っていった。その成果は論文「障害は除去されるべき特質なのか」「障害児の選択的出生と「親としての徳」」『宮崎大学教育学部紀要』第88号(2017年3月)に結実する。
|