研究課題
幸福概念を、狭い意味での主観的幸福としてのみとらえるのではなく、思想史的重層性と文化的多様性を考慮して、三つの研究グループ(近代思想史、社会思想・政治思想、宗教思想)の枠組みのもと、この概念の多義性ととらえようとするのが、本研究の主たる目的であった。そして、H27年度は、前年度までの各自の領域における研究成果とその相互の対話・検討を踏まえ、幸福概念に関する一つの理解ないし視角を提示するという計画であった。西欧・東洋の近代思想史研究においては、幸福概念の世俗化が進むとともに、その幸福概念をもとにした道徳・倫理の構築が図られてきたという、幸福概念の道徳化の経緯が明らかになった。また、日本および東洋の近現代の社会思想・政治思想研究においては、恋愛や家族という親密圏、社会という公共圏の双方において、幸福が過去や将来にまたがる時間性と不可分にとらえられてきたという、従来の幸福論では強調されてこなかった一面が明らかになった。また、宗教思想研究においては、幸福論の出来する源泉の一つが、不幸という実存的体験にあることが確認されると同時に、そこから生じる幸福論が、世界全体の善さを問う形而上学や将来における救済という時間論のような、実存と世界とを結びつける理路が問われることが明らかになった。以上の研究を通して、幸福概念が、個人がいまここで感じる主観的な幸福にとどまらず、人がどうあるべきかという道徳性、人が時間のなかでどう生きるかという時間性、人がこの世界のありようをどう理解するかという形而上学といった諸相にまたがって論じられるべき(ないし論じうる)ものであることが、これまでの幸福論にはない新たな知見として示された。以上の研究成果の一部は、研究メンバー各自の成果とともに、『社会と倫理』31号(南山大学社会倫理研究所)の特集「幸福論の諸相」において、近日内に公表される。
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