研究実績の概要 |
本研究「人の生命・健康に関わる医療情報の価値構造の研究」は、「人の生命・健康に関わる医療情報の提供・共有」に含まれる課題を分析し、その適正な方法の条件を考察することによって、情報共有に実現すべき「公正・正義」の倫理的構造を明らかにすることを目的とするものである。 平成27年度は、平成25年度と平成26年度の研究成果から得た「倫理的合意形成」の概念および、情報共有の方法として、意見の理由がどのような経緯で形成されたかという「理由の来歴」の概念の考察をさらに進めた。その結果、患者と医療者との共同の意思決定を行う際の重要な概念として、「Prospective Consensus Building」を導出した。この概念には、現在から未来という時間軸の視点と関係者(ステークホルダー)や問題の複雑さなどの広がりを医療空間の視点を含有している。この概念を取り入れた医療者向けの倫理教育の理論と方法論についての論文を投稿し、2015年には雑誌Journal medicine and Law に掲載された。また、同様に、本概念を用いた倫理教育の具体的な内容については、雑誌「看護管理」(医学書院、2015)にて連載された。さらに医療情報共有のあり方として、倫理的合意形成の概念を取り入れた倫理教育については、2015年、International Conference on Clinical Ethics & Consultation にて報告した。 結論として、「人の生命・健康に関わる医療情報共有」に関わる価値構造として、多様なステークホルダーが関与する複雑で不確実性を伴う医療の意思決定では、変化する医療空間に即応し続ける情報提供と共有のあり方の要請が公正および正義に関する価値と連関することを明らかにした。本内容については、生殖補助医療技術の例をもとに考察し、UNESCO chair in Bioethics 11th World conference on Bioethics, Medical Ethics and Health Law にて報告を行った。
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