研究課題/領域番号 |
25370028
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
星野 勉 法政大学, 文学部, 教授 (90114636)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 間の解釈学 / 異文化理解 / 風土 |
研究実績の概要 |
2016年11月21日、22日にアルザス欧州日本学研究所で開催されたシンポジウムには、直前にパリで起きたテロ事件後の厳戒態勢等の状況を考慮して参加を取り止めたが、そこで、発表するはずであった「人間と自然との関係を〈風土〉から考える」を中心に、研究成果を取りまとめる。 日本でフィールドワークを重ねたフランスの地理学者、オギュスタン・ベルクは、西洋の近代以降二項対立的に分断されてきた主体と客体をつなぐ概念として「通態(trajet)」を考え出したが、和辻哲郎の「風土」概念こそ、時間と空間、歴史と自然、文化と環境の関係態という意味で、この「通態」概念の先駆をなすものである。 自然主義的な日本的母型への回帰を意味するかに見える和辻の「風土」概念には、しかしながら、このように人間を自然との「通態」において捉える視点が認められるとともに、自然かそれとも人間かという近代的二元論のゆえに陥った隘路を切り拓くにあたっての重要なヒントが認められる。ちなみに、こうした隘路は、例えば、私たちが現在グローバルな規模で直面している環境問題において顕著に現れている。 和辻の「風土」概念は、それを扱った著書『風土』で採用された比較文化論的視点ともあいまって、一方で、あくまでもローカルな「日常直接の事実」を出発点としながらも、他方で、そこでの人間と自然とのかかわりの汎通的な構造を示唆している点で、ローカルで特殊な文化をグローバルな文脈で問題にすることを可能としている。その意味で、「風土」概念は、文化間の「間の解釈学」を構築していく本研究にとってもきわめて示唆的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既述の通り、2016年11月21日、22日にアルザス欧州日本学研究所で開催されたシンポジウムには、直前にパリで起きたテロ事件後の厳戒態勢等を考慮して、当初予定していた参加を取り止めた。 しかし、そこで発表する予定であった「人間と自然との関係を〈風土〉から考える」と題された草稿において、和辻哲郎の「風土」概念が、一方で、あくまでもローカルな「日常直接の事実」を出発点としながらも、他方で、そこでの人間と自然とのかかわりの汎通的な構造を示唆している点で、ローカルで特殊な文化をグローバルな文脈で問題にすることを可能とするものであることを発見したが、この発見は本研究を推進する上できわめて有力な手掛かりを与えてくれるものであった。
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今後の研究の推進方策 |
和辻哲郎の『風土』での方法論、それはディルタイ、ハイデッガーの解釈学を批判的に摂取した和辻流の「直接日常の事実」の解釈学、そして、異文化へと身を置き入れる比較文化方法論とであるが、これこそが異文化間の「間の解釈学」の構築が現実のものとなりうるうえで、重要な鍵となるものである。 と同時に、この研究は、人間と自然との関係の古くて新しいあり方を、東西を跨ぐより普遍的な議論の広がりのなかで追究することにもつながり、その意味で、現在私たちの直面している地球環境問題にも寄与しうるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年11月21日、22日にアルザス欧州日本学研究所で開催された国際研究集会に参加の予定であったが、そのほぼ一週間前に起きたパリでのテロ事件をうけ、旅程では厳戒態勢下のブリュッセルが経由地であったこともあり、参加を断念した。そのさい使用するはずであった旅費が、次年度使用額として持ち越された。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年秋にも、アルザス欧州日本学研究所での国際研究集会の開催が計画されている。また、2016年6月25日、26日に名古屋市の南山大学において、和辻哲郎の思想と哲学に関する国際研究集会の開催が予定されている。したがって、次年度使用額は両国際研究集会に参加するための旅費として使用する予定である。
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