研究課題/領域番号 |
25370029
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
大谷 弘 武蔵野大学, 人間科学部, 講師 (30584825)
|
研究分担者 |
青木 裕子 武蔵野大学, 政治経済学部, 准教授 (60635671)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ウィトゲンシュタイン / ファーガスン / リード / 常識 / 啓蒙 / スコットランド啓蒙 / 生活形式 / スコットランド常識学派 |
研究概要 |
基礎的研究としては、18世紀スコットランド啓蒙思想の思想家および、20世紀ケンブリッジの哲学者の文献を検討した。そのための活動として研究に必要な資料と文献の収集、研究会の立ち上げ、研究会における外部の研究者との交流を主として行った。 研究代表者の大谷はT.リード、G.E.ムーア、W.ウィトゲンシュタインら哲学者の文献を内在的に検討し、その「常識」理解および「啓蒙」的側面を明らかにした。このうち、特にウィトゲンシュタインについては、従来理解されていたような単に日常言語実践を基準とし、形而上学を断罪する哲学者としてではなく、言葉の意味を明晰にする対話的手法の中で、実践に対するゆがんだ像を正していく哲学者という側面が明らかになった。また、関連して現代の認識論における文脈主義とウィトゲンシュタインの常識論の比較を行った。 研究分担者の青木は思想史的アプローチに基づき、これまでのA.ファーガスンに関する研究を発展させるとともに、「コモン・センス」概念がいかに西洋思想史の中で発展し、その意味内容がいかに変化してきたかを研究した。 その他、「常識と啓蒙研究会」を立ち上げ、外部からの参加者を求めることで、関連分野の哲学者および思想史研究者の相互交流を行った。研究会においては、E.バークの歴史思想、B.フランクリンの政治思想など、18世紀スコットランド啓蒙思想の同時代人の思想との比較や、ウィトゲンシュタインの哲学論の検討などを行った。研究会の場では、哲学者、思想史研究者の双方から活発な討議がなされ、例えば思想史における「manners」の概念とウィトゲンシュタインにおける「Lebensform」の概念の比較といった、従来、比較検討されることなかった哲学的観点、思想史的観点が議論された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の課題は主に、(1)18世紀スコットランド啓蒙思想および常識学派、それからウィトゲンシュタインやムーアなどの20世紀ケンブリッジの「常識学派」の文献を消化、整理すること、(2)そのために必要な文献の収集、および研究会の立ち上げなどハード面を強化すること、にあった。 この二点に関しては順調にすすめることができた。(1)に関しては、研究代表者の大谷が主に哲学的観点から、研究分担者の青木が思想史的観点からA.ファーガスン、T.リード、D.ステュワート、G.E.ムーア、L.ウィトゲンシュタインの文献を検討した。(2)に関しては、基本文献を収集するとともに、「常識と啓蒙研究会」を立ち上げ不定期ながら三回の会合を持つことができた。研究会には哲学者、思想史研究者の双方が参加し、活発な討議を行い、相互交流を行うことができた。 また、研究会とは別に、大谷が哲学研究者の、青木が思想史研究者の取りまとめ役となり、複数の研究協力者に同時並行的に研究を進めてもらうことができた。 なお、18世紀の思想と20世紀の思想、それぞれの研究は順調に進めることができたものの、両者の比較という点になると、明快な観点を発見するにはいたらなかった。研究会の場などでは、さまざまな観点から比較検討がなされたが、両者をつなぎ、また現代に対して生産的な見方をもたらすような視点を見出すにはいたらなかった。これは課題として、平成26年度以降の研究に積み残している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は(1)基礎的研究の継続、(2)研究会における哲学者と思想史研究者の交流の継続、(3)国内外の学会における研究成果の発表、(4)海外の研究施設に滞在し、現地の研究者との交流をはかる、という四点により推進する。 (1)に関しては、引き続き研究代表者の大谷、研究分担者の青木が中心となり、複数の研究協力者に協力をあおぎながら、研究を進める。平成26年度より、常識と啓蒙に関する哲学的観点の現代的意義についても検討をすすめたい。(2)に関しては、引き続き可能な限り研究会を開催し、様々な観点からの討議を行うことで、研究に対する理解を深めていく。また必要に応じて外部からの講師を招き、不足している知識を補う。(3)に関しては、大谷、青木だけでなく、研究協力者にも関連する研究成果を取りまとめ発表してもらうことで、より多くの研究成果を学会に問い、フィードバックを受けることを目指す。(4)に関しては、平成26年度、大谷がイギリスのUniversity of East Angliaに滞在し、現地の研究者と交流をはかることとする。(すでに平成26年4月より滞在中。) なお、上記(4)に関連して、研究代表者の大谷が日本国内に常住しないため、国内での連絡に支障が出る恐れもあるが、Eメール、メーリングリストなどを活用し、密に連絡を取ることで対処する。また大谷の一時帰国に合わせて研究会を開催するなどのして、研究成果の共有をはかることとする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は基本文献の収集を行う予定であるため、物品費を多めに請求した。これはおおむね順調に進んだものの、「18世紀から20世紀の常識と啓蒙のイギリス思想」という未開拓かつ広範な領域を扱うため、必要な文献の選定に当初の予想よりは時間を要した。また、基本文献の消化や研究会の立ち上げなどに時間を要したため、学会発表などを当初の予定ほどは行えなかった。以上より、主に部品費および旅費の消化が当初予定ほどは進まなかった。 平成26年度も引き続き基本文献の収集を行う予定である。このため、平成25年度に未消化の物品費を文献の購入にあてる予定である。また、作成した翻訳原稿の精査などを外部の協力者に依頼する予定であり、謝金の出費を行う予定である。
|