本研究は、今世紀に入って急速な進歩を遂げたソーシャル・ネットワークやクラウド、動的検索技術、電子書籍といったインターネット上のメディアテクノロジーを、ラジオ・テレビといった旧来のマスメディア技術とともに、独自の“種”をなす「技術」として概念規定し、「技術哲学」の観点から批判的省察を行う試みである。その際、「人間vs.自然」の対立構図を前提しつつ人間による自然開発の体系的手段を「技術」の典型と見なしてきた従来の「技術哲学」を、間主体的なコミュニケーションの場面における技術である「メディア技術」へ向けて拡張する作業が本研究計画の中心的な課題となる。「メディア」を技術哲学の対象とすることで、これまで個々別々になされてきた情報倫理や情報社会論、メディア史に共有可能な理論的視座を設定すると同時に、高度情報社会時代における「技術」の現段階の哲学的把握にも寄与できると考える。 当該年度は「メディア技術」の理論的枠組みの構築に先立って、日進月歩というより“秒進分歩”の感があるメディア技術進展の現状を、エンジニアやデザイナーへのインタヴューや現場取材によって調査・把握し、立論のための素材と事例を収集した。調査・実施にあたっては、現場のエンジニアやデザイナーの設計思想や意図の理解、また実現した技術や製品・サービスが実際にどのようなコミュニケーションの変容を引き起こしているのかに関する調査を軸に実施した。
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