本研究は、認知現象学を理論的支柱として、心についての自然化の方途を拡充深化することを目指した。認知現象学とは、現象学的記述学と認知科学の実験科学の方法を融合させ、心的現象をトータルに記述、分析する新たな自然化の試みである。本研究では、以上の目的を達成するための具体的な研究対象として、ひとの心的状態や心的傾向が表情や動作にどの程度表出し、それを他者の視点から捉えることができるか、ということに焦点をあてて実験的な検証を行った。その際、その表出は一般的なものなのか、またそれを読み取るマインドリードの技能は習得可能なものであるのか、といった点に注目した。得られた成果としては、一定の経験を積むことによってそうした技能は向上していくことが明らかにされた。これによって、身体的心的技能に関する記述的研究とそれを数量化する研究との融合的なモデルを提示することができた。 また、上記の研究を補完するものとして、身体動作の記述に関する実験的研究を行った。特に、スポーツ選手の技能に着目して、技能を遂行する先取たちの技能についての記述データを蓄積し、それについて類型的なデータ処理を行って、記述に関する一般性の解明をめざした。これについては、先のマインドリードに関する研究における記述データに関しても同様の分析を行い、そこにある一般性を一定程度数量化して表現することができた。これらの研究は、道半ばではあるが、記述学と数量化を前提とする実験的方法との融合という点で、一定の成果を挙げることができた。
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