研究課題/領域番号 |
25370037
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
森田 團 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40554449)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歴史哲学 / 言語哲学 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、前年度に引き続き、「翻訳者の課題」(1921)の読解を中心に据え、ベンヤミンにおいて言語哲学と歴史哲学がいかにして交叉するのか、その鍵となる諸概念の解明に従事した。 平成26年度の研究においては、昨年課題に挙げた表現概念の考察を通して、ベンヤミンが、いかに哲学史における表現概念の歴史を受け継ぎつつ、それを自らの言語哲学の中心概念にしたのかを究明することができたが、この概念の核心として言語表現の先取的構造をベンヤミンが強調していることを、言語と歴史の関連を翻訳概念から捉え直したいとした昨年度の問題意識のうちに位置づけることができたのは、大きな収穫であった。また「先取」の概念は、カント哲学のみならず、ライプニッツ哲学において大きな役割を演じているが、この問いは、以上の哲学史的な連関を踏まえながら、平成27年度に計画しているベンヤミンとライプニッツとの関係という研究の枠内でさらに進展させていく予定である。 表現概念と並んで、もうひとつの焦点となったのは「志向性」の概念である。ベンヤミンは、言語の志向性という考え方にもとづいて、翻訳の概念を練り上げようとしていた。つまり、志向性もまた、ベンヤミンにおける言語と歴史との関係を考えるうえでの鍵概念にほかならない。このことを具体的なテクスト読解を通して示すことができたのは、平成26年度の研究のひとつの成果である。 また平成27年度の研究計画を見越して、『ドイツ悲劇の根源』における、とりわけ十七世紀悲劇の表現の解釈にも着手し、十七世紀における演劇表現への問いが、ベンヤミンの歴史解釈の基盤となっていること、また十七世紀演劇へのベンヤミンの問いが、同時代の哲学者であるライプニッツ哲学の発想を下敷きにしながら、発せられていることを確認することができた。この洞察の端緒を平成27年度においては展開していきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、予定していた通り、ブロッホのイメージ論についての論文を公表することができた。この論文ではイメージ知覚に潜在的に存在するユートピア的な契機についての分析を行ったが、これはベンヤミンの歴史哲学の基本概念である弁証法的イメージの理解にとって必要不可欠なものである。この観点におけるブロッホとベンヤミンの哲学の関連は、二十世紀初頭の哲学における想像力論の検討とあわせて、来年度以降の課題としたい。 他方で、ベンヤミンの初期言語哲学の包括的な読解、ならびに『ドイツ悲劇の根源』における演劇的表現の解釈の進展によって、平成27年度に予定しているライプニッツとベンヤミンとの研究の基盤を形成することができたのは今年度の大きな収穫であった。とりわけ、この2つのテーマは、シンポジウムやコロキウムでの発表という機会を通して、洞察を深めることができた。 平成26年度の研究計画をおおむね遂行することができた理由は、このように、ゼミナールや講義のみならず、論文執筆と学会発表の機会を研究テーマのために利用することができたことに存する。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、ベンヤミンとライプニッツとの関係を、研究計画にしたがい、以下の2つのテーマを中心に研究を遂行することにしたい。ただ前年度の成果との関連から研究計画に基本的にはしたがうものの、若干の変更を施す。 a. ライプニッツのモナドの概念とベンヤミンの歴史哲学との関連を包括的に研究する。その際、20世紀初頭のライプニッツ受容も考慮に入れる予定である。主要となるテクストは『ドイツ悲劇の根源』であるが、まさに言語と歴史との関連が集中的に展開された序文「認識批判的序説」をライプニッツ哲学との関係から読解することが、この研究テーマの主要な作業となる。この観点から研究は研究計画にしたがうものである。 b. 研究計画では、ライプニッツの記号論とベンヤミンの言語論の関連をテーマにする予定であったが、いままでの研究成果を踏まえ、より詳細なテーマとして、言語の先取的構造に関してのライプニッツからベンヤミンへの影響関係をまず重点的に究明することを主要な課題としてあげたい。ここでは「翻訳者の課題」を主要テクストにして、ベンヤミンとライプニッツとの関係を詳細に読解することが研究の中心となる。さらにこの観点からの研究では、先に述べた「志向性」の概念と言語記号との関連を、ライプニッツの記号論の読解を通して明らかにするとともに、この点についてベンヤミンがいかにライプニッツを受容したのかについても調査する予定である。 10月からはドイツでの在外研究を予定しており、二年間の研究成果を踏まえ、それを深めていくことを通して、いままで以上に研究を進展させ、成果を得たいと考えている。
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