研究課題/領域番号 |
25370039
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
川瀬 雅也 島根大学, 教育学部, 准教授 (30390537)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミシェル・アンリ / 生の現象学 / 文化の現象学 / ナショナリズム / 国民国家 / 共同体 / 共生 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究課題は「文化形成と多文化性の現象学的考察」であった。こうした観点から、ここでは、もっぱら経済史、比較社会学、政治学、ナショナリズム論、国民国家論、社会心理学、文化人類学などの人文社会諸科学が、とりわけ「共同体の形成」というテーマについていかなる研究を展開してきたかを探究した。「共同体」がテーマの俎上に上がるのは、文化が共同体を離れてはありえないからであり、また、個体が文化を生きることが、個体の共同体との関わりと緊密に関係しているからである。 研究は、主に、原始共同体から近代に至るまで、共同体がいかに形成され、また変遷してきたかを、歴史的、政治的、社会学的、人類学的、心理学的な観点から考察した。そこで明らかになったのは、原始以来、自然や共同体と密着して生きてきた個人が、近代へいたるプロセスのなかで、徐々に共同体から分離し、自立し、孤立化していく過程の詳細であり、また、そこで生じたと思われる経済学的、社会学的、心理学的な「生」の構造の変遷である。また、こうした共同体の変遷に引き続いて生じた、近代以降の国民国家形成やナショナリズム運動の政治的、社会学的、心理学的意味についても考察し、これら国民国家やナショナリズム運動が、「生」の起源としての共同性から分離された個人の生にいかに働き掛け、いかなる影響を与えたかを探究した。 本研究は、研究遂行の途中で、当初の計画の不十分さに気づかされ、本来想定していなかった多様な人文社会科学の成果についての検討を余儀なくなれた。そのため、本年度の研究成果としては「個体と文化──アンリの生の現象学の視点から」(『ミシェル・アンリ研究』第5号)にとどまった。しかし、上記の迂路は必要なものであり、この迂路を経て、再度、ミシェル・アンリの生の現象学に立ち戻ることで、当初の想定以上の研究成果に到達できるものと確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」にも記したように、本研究は、研究遂行の途中で、当初の計画の不十分さに気づかされ、本来想定していなかった多様な人文社会科学の成果についての検討を余儀なくなれた。そのため、研究遂行にはやや遅れが見られるが、しかし、この遅れ(迂路)は、研究を深めるためには必要な遅れ(迂路)であり、今後の研究にとっては、ここでの研究の成果がおおいに生きてくるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「研究実績の概要」で記した研究内容を哲学的な共同体論に接続していくことが主なテーマとなる。具体的には、まず、ヘーゲルの「法哲学」における国家論を詳細に検討すると同時に、それに対するフォイエルバッハの批判、そして、マルクスによる批判を検討する。こうしたプロセスを経て、これらヘーゲル、フォイエルバッハ、マルクスなどの思想の展開を、ミシェル・アンリがいかに解釈しているかを検討して、「生の現象学」に基づいた共同体や共生のあり方を探究する。とりわけ、ヘーゲル批判を通してマルクスが描き出そうとした新しい共同体のあり方や、それに対するアンリの解釈は、後に「共生の倫理学」の構築を目指す際に重要になると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に、所属機関が変更になり、新たな研究環境の整備に追われ、計画していた海外での研究活動ができなかった。平成27年度は、その分の経費を活用して、海外での研究活動を実施したが、結果的に、研究遂行のために想定していた範囲以内の経費で済ませることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、8月にルーマニアにて研究発表することが決定しいてるので、そのための出張旅費に経費の多くを充てることになる。その他、国内での研究発表旅費、図書の購入費等を想定している。
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