本年は、龍角考の続編にあたる「大形徹「龍角考―その二、鹿の角」を著した。前稿ではキリン型の角について考察し、角は龍に本来、生えているものではなく、それは王が冠をかぶるような象徴であると考察した。龍の本体は水に棲むワニと考えた。本稿では龍の角のその後の変化について考察した。角のない龍は「みづち」と呼ばれ、ワニの名残りをとどめている。戦国・秦漢になるとキリン型の角はほとんどなくなり、さまざまな形になった。前漢の馬王堆の龍は湾曲した細い角が後ろ向きに2本生える。類似の角をさがせばレイヨウ(羚羊=カモシカ)のものとなる。これは漢方薬で北里大学の博物館にも展示される。エジプトにはレイヨウの獣首を舳先につける喪葬船があり、中国や日本の龍首の船の起源もこのあたりに求められるかもしれない。レイヨウの獣首と龍の頭は似ているが、被葬者のタマシイを天に運ぶ乗り物であるという役割も似る。龍に関する伝説に「尺木」がある。「尺木」を頭に載せる事によって龍は空を飛べるという。『列仙伝』には空を飛ぶ龍の話がいくつか載せられ、魚の頭に角が生えて「空」を飛ぶものもある。「尺木」が角なのかはわからないものの頭に何か象徴的なものをつけることによって天に昇りうると考えたのであろう。つまり龍はエジプトの喪葬船と同様にタマシイを天に運ぶ船としての役割をもつのである。船は後に天空をかける車となる。「角」が空にのぼりうる必要条件となるのであろう。 それ以外に「『荘子』にみえる植物―扶揺・冥霊・大椿・櫟-」山口裕文・金子務・大形徹・大野朋子編『「中尾佐助の照葉樹林文化論」を読み解く』所収、2016.5刊行)では「扶揺(=扶桑)」について考察した。また「「東」と扶桑が結びつけられる理由」『漢字学研究』第4号、立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所(2016.7刊行)」では、「東」という文字の角度から「扶桑」について考察した。
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