昨年1月に中国より刊行された活字版サキャ派五祖全集『薩迦五祖文集』全25巻のうち,当該研究課題対象5書中の一書サチェンクンガニンポ著『チャクラサンヴァラ註』を取り上げて,既に整訂したテクストの読みと比較対照し,異同の有無を確認した。本『薩迦五祖文集』のテクストにはデルゲ版の葉数が記載されており,また校註が付されてもいないため,基本的には「デルゲ版の活字化」として扱うべきかと思われる。しかしその一方で同版と異なった読みが一部で取られているため,それらの読みを新たに加えた校訂テクストを公刊する予定であり,現在準備を進めている。 更に,成果公表の一環として,タクパギェンツェン著『チャクラサンヴァラアビサマヤ註』のうち全体の四分の一程の校訂テクスト,及び和訳・訳註を作成し,同書の内容構成を主に実修儀礼の枠組みに注目して纏めた序文を付したうえで『東北大学文学研究科研究年報』第67号に「Grags pa rgyal mtshan著bDe mchog Lu hi pahi lugs kyi mnon par rtogs pahi rim paの原典研究(1)」と題して収載,公表した。本書の提示する儀礼は「等至の瑜伽」,「威儀の瑜伽」,「施食の瑜伽」,「食事の瑜伽」という4種類のユニットを基本的構成要素として,1日4回実践することを特徴としており,『チャクラサンヴァラアビサマヤ』自体の記載からその全体を予想することは困難な遥かに複雑なものであって,タクパギェンツェンに到る迄の伝承経過において構築されてきたものと考えられる。なお本年度も引き続き「同(2)」として,残余部のうち次の四分の一程度を公刊する予定である。
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