研究課題/領域番号 |
25370063
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
白館 戒雲 大谷大学, 文学部, 名誉教授 (10179062)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 『現観荘厳論』 / タルマリンチェン / 般若学 / マイトレーヤ / ハリバドラ / 『般若波羅蜜経』 / 『菩提道次第大論』 / ツォンカパ |
研究実績の概要 |
大乗の代表的経典『般若波羅蜜経』を引用しつつ、その広大な修行階梯ないし構造を解明したマイトレーヤ(弥勒)著『現観荘厳論』とその最重要な註釈書ハリバドラ(8世紀末)著『註釈・明義』は、中期から後期のインド大乗仏教に大きく影響した。チベットでも盛んに学ばれ、その「般若学」は顕教学問寺での最上位の学科になった。本研究では、チベット、モンゴルの最大宗派ゲルク派の開祖ツォンカパの後継者タルマリンチェン(1364-1432)著『註釈・心髄荘厳』を全訳し、その注釈文献を参照して、インド、チベットでの大乗仏教の思想、その展開を研究することを、目指している。 全9章のうち、第1章のうち総論の部分は、すでに翻訳発表されているので、第1章「一切相智性」の残りの部分から藤仲孝司氏と翻訳研究を行っている。『現観荘厳論』と『註釈・明義』と『註釈・心髄荘厳』については、平成26年(2014)度末までに順次、翻訳し、第5章冒頭まで終了した。そこでの『二万五千頌般若経』チベット語訳との対応も確認した。平成24年(2012)度の「発心」、平成25年(2013)度の「教誡」に続いて、平成26年(2014)度は「順決択分」(総論部分)を発表し、広釈部分についても8割方作業が完了している。 他方、補助的研究として、『現観荘厳論』の教えともされるツォンカパ著『菩提道次第大論』について、以前、発表した校訂版に基づいた和訳と、関連文献の詳細な研究を継続し、『同論』の中間の部分(全体の約3分の1)の和訳研究を公刊した。これは、大士の実践階梯を扱う部分であり、発菩提心、六波羅蜜、四摂事、止住を扱っている。この典籍は、チベット仏教圏のあらゆる分野で最重要な典籍とされており、これによりこの名著の全体が邦訳された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『現観荘厳論』とその関連文献について進展はまずまずである。そのうち、第1章の中程から第5章の冒頭まで和訳ができたことは、順調である。特に哲学的に難所の多い第4章を終了したので、今後は楽になると思われる。『二万五千頌般若経』との対応はチベット語訳では完了したが、梵本や漢訳との対照はまだできていない。ツォンカパ著『広釈・金鬘』やセラ・ジェツンパの『註釈・総義』を用いた詳細な研究は、予想以上に手間取るので、上記の発表部分と、それに続く「順決択分」の広釈の部分に限られている。 他方、『菩提道次第大論』に関しては、チベットで最大の注釈書の当該部分を全部読解し、ほぼ和訳した上で、関連文献の梵文、漢訳、日本、欧米の業績を参照し、現代の文献学手法を用いて徹底的に分析し、解明したので、同書の研究史において同書が研鑽されつづけたチベット・モンゴルを含めても、最も詳細な研究書の一つになった。約80年前の長尾雅人氏、10年前の本研究者たちの翻訳と合わせて、世界的な名著の和訳が揃うことになったので、大きな成果となったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
『現観荘厳論』とその関連文献について、第5章以降の和訳はこの調子で継続させる。上記のように最後の第9章までさほど困難は伴わないであろう。それが終了した時点では、兵藤氏が発表された第1章の総論の部分についても、和訳を行う予定である。これは、今後それらを含めた全体について、ツォンカパ著『広釈・金鬘』やセラ・ジェツンパの『註釈・総義』を読解して、詳細に研究するためである。その詳細な研究としては、第1章のうち、引き続き、「修行」「四の分別」「摂受」「所縁」といった項目、第2章以下を同様の手法を用いて、研究する。 補助的研究としての『菩提道次第大論』に関しては、「観の章」の部分に取り組みたい。これは、約80年前に長尾雅人氏が和訳し公刊した部分でもあり、インド大乗仏教の中観派ナーガールジュナやチャンドラキールティの哲学に基づいた大きな論述である。故長尾氏の翻訳は、時代のせいもあって、この法の伝承も註釈書も無いままに、漢訳を参照して翻訳したものであり、おおむね正確であるが、詳細な部分に問題を残している。また、引用典籍は確認されているが、当時の学界では、ナーガールジュナなど初期中観派の思想は理解されていたが、インドの中期中観派、後期中観派の認識論・論理学とも融合した中道思想、あるいはダルマキールティの論理学について、さほど解明されていなかったので、思想的分析はほとんどなされていない。本研究者は以前自らの公刊した校訂版に基づいて、藤仲氏と協力し、一応、和訳をすでに終えているので、今年度は、チベットで最も権威があるとされる注釈書『四割註の合揉』、さらに「観の章」に特化した注釈書を参照して、精密な和訳と、詳細な研究を行い、公刊したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究予算の執行について、前年度には、購入を予定した書籍の絶版もあったので、10万円近くが繰り越しになったが、本年度(平成26年)には、それらを改めて探して購入し、日本語の読解、執筆が万全でない本研究者を補助する藤仲氏(アルバイト雇用)との協力も順調であった。本年度の研究費は、小額の端数を除いてほぼ予定通りに執行できた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は、引き続き藤仲氏(アルバイト雇用)に協力を得て、翻訳を行っていく。 補助的研究としての『菩提道次第大論』に関して、参照する図書を購入する。またチベットで最も権威があるとされる注釈書『四割註の合揉』、さらに「観の章」に特化した注釈書を参照して、精密な和訳と、詳細な研究を行い、公刊したいと考えているため、研究協力者に原稿のチェック及び助言を受ける。 以上のような研究方針であるため、研究費の大部分は人件費・謝金、物品費に使用する予定である。
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