インド後期大乗からチベットで隆盛した「般若学」(顕教5大学科の一つ)を、根本典籍『二万五千頌般若経』と、綱要書のマイトレーヤ著『現観荘厳論』、主要註釈書ハリバドラ著『註釈・明義』を、チベットで最重要なタルマリンチェン(西暦1364-1432.ツォンカパの高弟)著『釈論・心髄荘厳』と合わせて全部を和訳した。『心髄荘厳』は簡略なので、ツォンカパやセラ・ジェツンパの註釈を参照して、インド撰述、チベット撰述文献にも調査した。完成部分として、平成27年度(西暦2015年度)に、第1章より「順決択分」の後半部分を発表した。 副次的な研究としては、まず、広くチベットに広まった「菩提道次第」に関して、最重要でツォンカパの宗教改革の根本典籍になった『菩提道次第大論』のうち、中盤の約3分の1、「大士の道次第」の前半を和訳研究し公刊した。これにより仏教史の名著の全体が和訳された。ここは、大乗の自利と利他を完成する実践を説く。残る最後の約3分の1、止観(精神集中と実相の観察)の部分も和訳と索引が完成した。今年秋に出版する予定である。 もう一つ副次的な研究として、チム・ジャムペルヤン著『倶舎論の註釈』の校訂に着手した。これはヴァスバンドゥ(世親)著『倶舎論』への註釈であり、チベットの各宗派で「倶舎学」(顕教5大学科の一つ)の最重要の教科書として学ばれつづけている。そこには、大乗の経論との比較も、漢訳のみ残る説一切有部のアビダルマ文献への言及もあるので、それらを調査している。全8章のうち、前半の校訂、索引、科文を完成し、出版できた。
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