学会発表としては、2017年9月16日、東京大学で開催された日本宗教学会第76回学術大会において、「死の超克ー翻訳された予兆学と冥界説話ー」と題して、インド人の死の受容の態度と生き方を、ナチケータス物語と死の前兆の超克法を紹介する翻訳・翻案文献から読み解いた。善悪の行為の果報としての来世観やダルマの実践による解脱の追求とにイスラームの善悪観や信仰の目的との共通性を見出したことが、神を知る智慧の道としての梵我一如の思想の受容や予期せぬ死の超克法のスーフィー実践道への受容を可能にしたことを明らかにした。2018年2月1日にはボン大学で開催されたThe 5th Perso-Indica Conference において、Tantric elements in Persian translated works on astrology と題して、Narapatijayacaryaというタントラ起源の占星術の書が『アムリタクンダ』として知られた文献のルーツの一つであり、ペルシア語やアラビア語文献に訳され、一つの学問分野として定着するようになったことを明らかにした。Perso-Indica Project においては、分担分野を中心として共同研究を続けている。 インドの伝統的学問体系が、イスラーム系言語によってどのように紹介されてきたのか、またイスラームの伝統的学問体系とどのように結び付いていったのかを、サンスクリット語古典のイスラーム系言語への翻訳・翻案文献を通して見るという本研究の目的は、とりわけヨーガ文献に関して明らかにすることができた。叙事詩・プラーナ的な創世神話の知識は、当時のインドのイスラーム知識人たちの歴史観に新たな息吹を吹き込んだだけでなく、インド人固有の宇宙生成論の共有をももたらした。この成果は新年度末に開催予定の『アクバル会典』をめぐるワークショップにおいて発表する。
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