研究課題/領域番号 |
25370071
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田中 悟 神戸大学, 国際協力研究科, 特命准教授 (90526055)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 現代韓国 / 葬墓文化 / 死者 / 墓地 |
研究実績の概要 |
本研究は、1990年代以降、火葬率の急激な上昇に伴って大きな変容を見せている現代韓国の「葬墓文化」に注目し、宗教学的かつ政治学的な分析を加えることを目指すものである。本年度は、(1) 「葬墓文化」に関する現状の把握、(2) 「葬墓文化」をめぐる認識の変化、(3) 「葬墓文化の変容」から見る「韓国ナショナリズムの変容」という研究課題について取り組みを進めた。 資料収集・フィールドワークについては、2015年9月に大田広域市・仁川広域市・ソウル特別市などにおいて、「葬墓文化」に関する現況調査を実施した。さらに同年12月から翌2016年1月にかけては、釜山広域市・蔚山広域市、また慶尚北道の永川市、慶尚南道の晋州市・南海郡などでも各地の葬墓施設を訪れて、現地調査を行なった。 これらの調査に基づく研究成果は、2015年9月の学会発表(日本宗教学会第74回学術大会)においてその一部を公表し、2016年1月に単著論文として公刊された(「韓国葬墓文化における自然葬に関する覚書」『国際協力論集』第23巻第2号)。また、関連する翻訳論文も2016年1月に公刊された(パクボクスン・パクテホ・イピルド「火葬施設利用にともなう利用者変化分析―ソウル追慕公園を中心に―」『六甲台論集―国際協力研究編』第17号)。これらの研究は、現代韓国の「葬墓文化」の変化を跡付けるとともに、その意味するところについて考察を加えたものであり、現代韓国における「葬墓文化」研究として先駆的な業績であると位置づけることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から計画していたフィールドワーク・資料収集については、現地におけるMERSコロナウィルスの感染拡大によって一部予定を中止する必要が生じたが、全体としてはおおむね順調に進展している。また、フィールドワークやそれに基づく考察の結果を踏まえて、年度内に学会発表を行ない、公刊論文も出されている。こうした成果の公表の面でも、研究は順調に進められている。 以上の理由から、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と評価するのが妥当であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の研究対象である現代韓国の「葬墓文化」は、現在もなお変化を続けているため、一定のフィールドワーク、および資料や情報の収集は、今後も継続される必要がある。そのことを前提としたうえで、今後は下記のテーマに沿った分析・考察を行ない、その成果を順次公表していくものとする。 (1) 「葬墓文化」をめぐる人々の認識の変化に関する分析: 土葬から火葬に移行し、墓地の形態もそれに合わせて変容していく過程において生じることが予想される葛藤に注目し、現代韓国の「葬墓文化」が置かれている現状に対する歴史的・宗教的な理解を試みる。 (2) 「葬墓文化の変容」を踏まえた「韓国ナショナリズムの変容」: 上記の「葬墓文化」に関する考察を踏まえて、韓国のいわゆる「国家報勲」政策にまつわる死者への意味付けの変容を追うこととする。具体的には、全国各地に展開し、新規開設に向けた建設が進められている国立墓地群に注目し、それらの場所で国家的に意味付けられている死者をめぐる考察を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年5月から9月ごろにかけて、調査対象地である韓国において中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすMERSコロナウィルスの感染が広がったことにともなって、現地調査・研究報告を中止・延期せざるを得なくなった。このため、調査研究と成果発表のスケジュールも年度を越えて後ろ倒しする必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
年度内に実施できなかったフィールドワークおよび資料収集について、次年度に繰り越して実施するものとする。研究そのものの進展は順調であり、これまでの研究成果を踏まえてさらに調査研究を進めることで、本課題に関する研究とその成果の公表がよりいっそう進展することを見込むことができる。
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