研究課題/領域番号 |
25370079
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小原 克博 同志社大学, 神学部, 教授 (70288596)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 環境文化 / エネルギー政策 / 宗教 / 自然観 / 原発 / 未来世代 / 倫理 / 東日本大震災 |
研究概要 |
(1)近代的(西洋的)自然理解は自然を支配するのに対し、日本の伝統的な自然観は自然と人間との共生に基づき、そこに立ち返るべきだという言説が、東日本大震災以降、多く観察される。日本の近代化を批判的に見る視点としては大事であるが、このような言説が日本の自然観の優位性を説く文化ナショナリズムに接近する場合、かえって環境問題に対する責任意識を麻痺させるため、有害な側面を持つ。安易に「自然との共生」を説くことができないほど、人間による自然破壊が深刻であることを「生物多様性」などの科学的議論から学ぶ必要がある。呪術的畏れの回復ではなく、科学的手法による「畏敬の念」の回復が求められる。 (2)原発を含むエネルギー政策は、これまで技術的・経済的視点からの判断に依存してきた。しかし、放射性廃棄物の処理は、どの世代まで先延ばしすることが許されるのかという議論を筆頭に、将来世代の安全を現代世代が考えることは倫理的急務である。富とリスクの配分を現代世代を中心に規定し過ぎると、持続可能な社会の形成を阻むことになる。技術的・経済的な評価は短期的な成果に集中しがちであるため、それを批判的に検証する倫理的な判断基準が不可欠である。 (3)上記の倫理的課題は、未来世代に対する責任倫理をいかに構築するのかという問いに収斂する。その問いに答えるためには、世代間コミュニティを再確認しつつ、時間的に拡張された「公共性」「責任」の概念を形成する必要がある。リベラリズムの責任倫理は、アトム的個人の自由意思を重視し、結果的に、共同体としての道徳的責任に対する無関心を生み出す危険性がある。こうした点を踏まえながら、個人の多様性の尊重と両立し得る「集合的な道徳的責任」を模索しなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に即した研究発表・講演を行う中で、研究目的の主要部分についての基礎作業を今年度は遂行することができた。環境文化、自然観、生物多様性、エネルギー政策、公共性、世代間倫理、公共性などのキーコンセプトに対する整理も行うことができた。 また、日本が原発の輸出を進めているトルコや、天然ガスの輸入先として重視されているオマーンを訪ね、当地の宗教研究者たちとエネルギー問題について意見交換をすることができたことも、今後、グローバルな視野で研究課題を考えていく上で大切な手がかりとなった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の年度目標に沿って研究を遂行していく予定である。人間と自然との関係を比較文化的に問う際に、動物の位置づけに注目することを、当初の研究目標に掲げていたが、その点がまだ十分に展開されていないので、今後は、生物多様性などを基軸に、動物・人間関係の考察にも注力していきたい。 また、日本のエネルギー政策の全体像を把握するためにも、他国との比較研究をいっそう進め、その際、それぞれの地域・国における宗教文化との関係に注意を払っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2014年1月に購入申込みをした物品の納品が遅れ、2014年4月に到着したため、差額が生じた。 大きな差額ではないため、次年度の計画に従って適正に使用する。
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