本研究は、シティズンシップ(市民性)教育への関心から政治思想史研究における政治と教育との関わりについて考察を行うものである。今年度は、民主化が進展する時代の民主的な市民性育成論について、19世紀のイギリスの政治思想を主題として取り組み、論文「J.S.ミルの市民教育論」を執筆した。ここでは陪審裁判や地方自治や自発的団体などへの参加実践を通しての「政治教育political education」の問題に加えて学校教育そのものの問題についても取りあげた。ミルの生きた時代のイギリスは産業革命により資本主義社会が到来、新たな労働階級の台頭する中、選挙権の拡大や教育制度の確立等が課題となり、彼もまた当時論争となった義務教育制度の導入、教育への国庫補助金制度の導入、大学の非宗教化、職業教育と一般教養をめぐる論争、科学教育と古典教育をめぐる論争など広範囲に及ぶ論争に加わっており、それら一連の教育論における市民教育を考察した。さらに、ルソーやディドロなど18世紀啓蒙期に焦点をあて、特に図書「共感」は政治思想において政治的紐帯等の基礎として共感・同情等が果たす意義について教育論を中心に分析したものを含む。
|