主客未分の体験という概念は、人間に与えられた無条件の相互理解の場を指して肯定的に用いられるが、他者の住まう空間を自己もまた分有するというこの考えの中には、明らかに不合理なものが含まれている。この研究では、主客未分という概念によって示されていることがらを「寸断された身体」をはじめとする精神分析の概念によって練り直し、人間が幼児期に経験する自己身体との間の不協和の体験が、人間相互の身体が混じり合うような不合理な感じ方をも可能にしていると考えた。この可能性を現代芸術の造形原理の中で体験することを通じて、人間の相互ケアにおいても互いの身体を自他未分化の水準で捉える実践を開き得ることを見出した。
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