研究課題/領域番号 |
25370086
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
金関 猛 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20144727)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フロイト / 精神分析 / 神経学 / ドイツ語圏19世紀思想史 |
研究実績の概要 |
26年度には所属学会で研究発表を1回行い、その内容も反映させた著書『ウィーン大学生フロイト―精神分析の始点』(中央公論新社、2015年3月、全287頁)を出版した。この著書で考察した大学生時代のフロイトの学術研究活動は日本ではこれまでまったく注目されておらず、また世界的に見ても、これに関するまとまったかたちでの論考はない。本書では大学時代の体験が精神分析創始に直結していることを論証した。 1873年にウィーン大学医学部に入学したフロイトは様々な学問分野に関心を向ける。医学部生としての専門教科は当然のことであるが、動物学、哲学の講義を受講し、また友人(ヨーゼフ・パーネト)を介して、ニーチェに関する知識も得ていた。フロイトのウィーン大学における哲学の師は現象学の祖フランツ・ブレンターノで、フロイトはブレンターノの私宅にも招かれ、親しく言葉を交わしていた。またこの師の勧めでイギリスの哲学者J.S.ミルの翻訳にも携わった。こうした体験はのちの精神分析創始に色濃く反映している。また、友人パーネトは実際にニーチェに会い、約3ヶ月間、交友関係にあった。パーネトはフロイトにそのときの模様を手紙で書き送っている。その手紙は残されていないが、婚約者宛の手紙でニーチェについて多くを書き綴っている。著書では、パーネトの婚約者宛の手紙、最近公表された彼の自伝を考察することで、フロイトとニーチェの類似性と差異について論じた。さらにフロイトが生涯にわたって師として敬愛していたのは、ウィーン大学の生理学者エルンスト・ブリュッケであった。ブリュッケの生理学研究所で実験と観察に勤しんだフロイトは科学的実証主義をいわば血肉化していた。著書ではこの科学的実証主義こそが精神分析の基盤であることを明らかにした。なお、この著書は、5月3日の読売新聞の書評欄で取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、今年度は研究論文の公表及び学会での研究発表のみを予定していたが、すでに著書(『ウィーン大学生フロイト―精神分析の始点』)を発表することができた。この著書は、研究計画全体を包含するものではなく、あくまで精神分析の成立の「始点」について考察するものである。しかし、今後、精神分析成立に向かうフロイトを研究するうえでこの著書の発表の意味は大きく、「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、文献収集を行い、それを精読する。26年度は大学生時代のフロイトについて論じることができたので、今後は大学卒業後のフロイトの足取りをたどる。学生時代のフロイトは、確かに1学期間、精神医学者テオドール・マイネルトの講義を受講してはいるが、とりわけ精神医学に関心を向けていた様子はない。しかし、ブリュッケの生理学研究所を離れたのち、フロイトはウィーン総合病院のマイネルトの医局に入る。今年度はマイネルトのもとでの精神医学研究、そしてマイネルトとの決裂について考察する。その結果は、所属学会で口頭発表するとともに、所属部局紀要に論文として発表する。
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