本研究は、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールが、19世紀末から20世紀初頭の世界史的事件に対して、どのような政治的立場を取っているかを明らかにしたうえで、彼の政治思想と言語思想の関係を究明するものである。 2013年度はドレフュス事件、日清戦争、ボーア戦争、アルメニア人虐殺事件など、19世紀から20世紀の世紀転換期の歴史的事件に関する研究書を入手し、当時の客観的な状況把握に努めた。2014年3月に3週間ジュネーヴに滞在し、ジュネーヴ図書館でソシュールの書簡、伝説・神話研究およびアナグラム研究関連の資料を収集した。このとき、ソシュール研究者でコロンビア・アンティオキア大学のクラウディア・メヒア・キヒャーノ教授の知己を得て、今後の研究協力を約束した。ジュネーヴ・アルメニア・センターでは、付属図書室所蔵の資料を収集した。特に19世紀末のオスマン・トルコによるアルメニア人虐殺事件およびアルメニア人救済活動に従事したスイス人に関する稀少な資料を入手することができた。2014年8月から9月初旬にかけて約1ヶ月間パリに滞在し、フランス国立図書館で、ソシュールと親交のあった学者やジャーナリストに関する資料を収集した。2016年3に約1週間ジュネーヴに滞在し、ジュネーヴ図書館およびジュネーヴ・アルメニア・センターでで主に19世紀末・20世紀初頭のジャーナリズム関連の資料を収集した。 キヒャーノ教授からは、彼女がソシュール家で発見したソシュールの新資料の提供があった。そこにはジョルジュ・クレマンソー宛ての手紙の草稿や、日本の雑誌『國民之友』に関する手稿などが含まれている。この新資料と従来の資料を総合的に読解することを通じて、ソシュールの政治的立場を明らかにし、当時の知識人の相関関係の中にソシュールを位置づけることが可能になった。
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