研究課題/領域番号 |
25370094
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
土橋 茂樹 中央大学, 文学部, 教授 (80207399)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 洞窟の比喩 / 新プラトン主義 / 教父学 / プラトン / 『国家』篇 |
研究概要 |
本研究は、プラトンの主著『国家』篇の中でも特によく知られている「洞窟の比喩」の主要モチーフが、アリストテレスからヘレニズム期を経て、初期キリスト教思想にどのような影響を与え、同時にどのような変容を被ったかを、ギリシア哲学とギリシア教父の双方の文献において検証・考察することを目的とする。平成25年度は、初年度として以下の4種の研究活動を行った。 ①予備的考察として、『オデュッセイア』の「ニンフたちの洞窟」を象徴的、寓意的に解釈したポルフュリオスのDe antro nympharumを読解し、その作業を通じて新プラトン主義における象徴的、寓意的解釈手法の解明に取り組んだ。 ②プラトン『国家』篇を政治的著作とみるか、非政治的で倫理学的な著作とみるかという主題対立の研究史を、主だった論攷の読解を介して通観した上で、そうした議論が「洞窟の比喩」解釈にどのような影響を与えたかを主題的に考察した。 ③V.Harteの論稿を中心に、「洞窟の比喩」解釈の②以外の可能性を、主に意味論的観点から探ることによって、(次年度以降に考察する)同比喩のギリシア教父による変容の可能性を予め哲学的に探索した。 ④以上の研究を踏まえた上で、「洞窟帰還」の問題を重点的に研究していくことによって、具体的には、洞窟から解放されイデア観想という人間本性の完成という完全な状態に至りながら、なぜ、再び不完全な洞窟へと戻らねばならないのか、という洞窟への下降の意義解明が試みられた。 以上を総括するに、断片的には従来も優れた研究が散見されたものの、本研究のように東西教父思想への影響という一貫した観点から総合的、体系的に研究されることは稀であり、まだ序論的段階とは言え、その点で大いに意義ある成果を得たものと思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究目的の達成度に関して、おおむね順調に進展しているという自己評価は以下の理由による。 ①予備的考察としてのポルフュリオスのDe antro nympharum研究に関しては、同書における「洞窟」解釈を博士論文のテーマとしている大学院生を、中世哲学会の査読委員の立場から私が指導する機会を得たことで、新たな発見も含め少なからぬ客観的な成果を得た。 ②プラトン『国家』篇に関する研究については、分担研究者として本研究と並行して私が取り組んでいる「プラトン正義論の解釈と受容に関する欧文包括研究」(科学研究費補助金・基盤研究(B)、研究代表:納富信留)の主要メンバーであるプラトン研究の専門家たちとの頻繁になされた研究会や研究合宿において、大いに啓発され、本研究のテーマに関しても、多大の収穫を得た。 ③以上に加え、私が客員研究員を務めるオーストラリア国立カトリック大学の初期キリスト教研究所の所長ポーリン・アレン先生をはじめ、研究所スタッフとの研究交流において、本研究の意義が高く評価され、また多くの示唆や教示を得られたことで、今年度から来年度にかけての研究の方向性に関しても、具体的な進展を得られた。 以上3点が、本研究が順調な進展を遂げていると自己評価できた理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の4種の研究活動を行う予定である。 ①キケロ『国家論』、プロティノスの諸論攷、プロクロスの『国家註解』などから、「洞窟の比喩」を各論者がどのように批判的に理解し、変容していったかを調査研究する。 ②アレクサンドリア学派のフィロンやオリゲネスにおける「洞窟の比喩」の受容の痕跡を各々のテキストの内に探り、その受容と変容の実態を跡付ける。とりわけ、オリゲネスにおいて「神の降下」が、父なる神を太陽に、子キリストを太陽光線に譬えられる諸テキストに着目し、それらの綿密な読解を試みる。 ③以上の二つの研究成果から、新プラトン主義とアレクサンドリア学派におけるプラトニズム受容のそれぞれに固有な位相を析出し、それらを踏まえた上でエヴァグリオスのような砂漠の師父のプラトニズム受容と比較考察する。 ④エヴァグリオスや擬マカリオスから発し、カッパドキア教父らを経て、ヘシュカズムにまで至る修道院運動を動機づけていたアパテイア(情念からの脱却)という修徳修行の目的に至る道行きが、神的領域への「上昇」と理解されていた背景に、「洞窟の比喩」がどれほど影響を与えていたのかを、諸テキストの内に調査研究する。最終的に、以上の研究成果の一部は、26年度に開催されるアジア太平洋教父学会(APECSS)において研究発表される予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初25年度予算で計画していたメルボルン開催の国際学会への出席が、本務校の大学入試関係の入試委員としての公務と重なったため、欠席を余儀なくされた。そのため、その旅費として予算計上されていた約30万円が執行できなくなり、その後、代替の国際学会として予定していたものも同年度中の開催が見送られたため、同年度中には執行ができなくなり、ほぼ同額が次年度使用額となった次第である。 次年度(26年度)に予定されている国際学会への参加費に加えて、さらに国内外への資料収集および当地在住の研究者との研究交流の費用に充てていく計画である。具体的には、オーストラリア・カトリック国立大学・初期キリスト教研究所への出張、および同研究所所員ブロンウェン・ニール博士の来日の際の講演会の開催等を計画している。
|