本研究の最終年度である平成28年度において、まずは前年度の研究の成果として応用哲学会で「技術評価の問題に関する哲学の貢献について」と題する研究発表を行った。そこでは、1960年代に始まるアメリカ議会でのテクノロジー・アセスメント(TA)の取り組みを踏まえつつ、それとの関連でヨーロッパ、特にドイツにおける議会TAの取り組みをまとめ、ドイツにおける事情について詳細に考察した。その際、ドイツ技術者協会(VDI)における委員会「技術評価」の中で哲学者たちが果たした役割について考察し、技術評価の課題や今後について検討した。それと並行して、TAの様々なコンセプトを分類し、参加型TAの持つ意義と日本においてTAを根付かせる上での哲学者の貢献について検討した。 その後、技術評価の関する哲学的研究書等を調べるために、ドイツ・ベルリンの国立図書館などを利用し、閲覧したり資料を入手したりした。日本では、技術評価に関する哲学的研究書が紹介されたことがほとんどない一方で、こうした研究がドイツで盛んに行われ、研究書も非常に多く刊行されていることを知るとともに、こうした研究の蓄積を日本でも紹介し、さらに展開していく必要があると感じた。 こうした研究を踏まえ、中部哲学会の「現代における対話の可能性」というシンポジウムにおいて、名古屋大学久木田准教授、九州国際大学松井教授と並んで、「科学技術の時代における対話の可能性」という提題を行った。そこでは、ドイツでの技術哲学の歴史、ゲーレンやハーバーマスの思想、さらにVDIの哲学者たちの取り組みなどにも触れつつ、科学技術の問題に関する対話の重要性、特に市民参加型の技術評価の可能性について論じた。 研究が十分には進まず、本研究の最終目標であった著書の出版までには至ることができなかったものの、さらに研究を進め、著書の形でまとめることを目指したい。
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