最終年度の研究成果 パリとニューヨークで、戦前の鈴木ヴァイオリンを含む日本の洋楽器産業について資料収集を行った。その結果、鈴木ヴァイオリンが1896年という早い時点で、ニューヨーク州ポートジャービス市の楽器店に並べられており、米国製の楽器と比べて遜色ないという評価がなされていたことが分かった(『ミュージック・トレード』誌)。鈴木政吉が初めてヴァイオリンを完成したのが1888年初頭ということを考えれば驚くべきスピードであり、1893年のシカゴ・コロンブス万博での受賞が奏功していたことが伺える。 5月と11月に名古屋の宗次ホールで愛知県立芸術大学所蔵の1929年製鈴木政吉作高級手工ヴァイオリンを使ったレクチャーコンサートを開催した。11月は新発見の政吉作の1927年製手工ヴァイオリン(大河内裕之氏所蔵)のお披露目公演ともなり、二つの兄弟楽器による演奏は大きな反響を呼んだ。3月には愛知学院大学モーニングセミナーで演奏つきの講演を行い、こちらも多くの聴衆を集めた。科研費の研究のしめくくりとして、3月に1929年製と1927年製の政吉作のヴァイオリンの演奏の録音を行った。
研究期間全体を通じて実施した研究成果 この研究はさまざまな形で成果を発表することができた。まず、単行本『日本のヴァイオリン王―鈴木政吉の生涯と幻の名器』(中央公論新社)を出版した。連動企画として、大正期の『名古屋新聞』に関するデータベースを作成し、インターネット上に公開した。さらに「ベルリン高等音楽学校への鈴木ヴァイオリンの寄贈」について、大学の紀要に発表した(畑野氏との共著)。講演や政吉ヴァイオリンを使用したレクチャーコンサートも多数行った。その他、政吉の生涯を取り上げたテレビドラマへの協力(平成27年2月放映)や、大府市の特別展『鈴木政吉が住んだ町~幻となったヴァイオリンの里』(平成29年度)への協力なども行っている。
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