研究課題/領域番号 |
25370112
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
平出 隆 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90407825)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 芸術諸学 / 言語/形象 / コンセプチュアル・アート / メールアート / アーティスト・ブック / フルクサス / 絵画文法 / 多次元構造体 |
研究概要 |
「言語/形象」関係を軸にした河原温についての研究は、2013年度においては、典型的な"Date Painting"について豊田市美術館所蔵作品を中心に、具体的な細部検証を行ない、次にニューヨーク市街を対象に、その芸術の生成と現地の芸術との同時代的関係を調査した。この結果、あらたに次のようなパースペクティヴを持つに至った。 本研究は「言語/形象」の本質的関係を明らかにしようとするが、その調査は、河原温作品のとる特異な作品のありようについての形態論的分析、展示論的分析、思想研究に大別される。 形態論においては、タイポグラフィーとしてあらわれる文字や、ファイリングや函をふくむ書物、葉書や電報という通信形態をめぐって考察される。また、その延長として、「市街」及び「規則」という概念が対象として調査されることになった。 このような流れから、さらに関連し比較されるべきアーティスト、潮流などが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
河原温は、ほとんどすべての研究者やライターからの取材要請を拒んできた。みずからの展覧会に姿をあらわさない作家であるから当然ともいえる一方で、当研究者からの論及を例外的に望んでこられたらしい(河原温、河原弘子、岡崎和郎氏の証言)。しかし、残念なことに2013年12月より深甚な鬱病に罹り、現在、その面会はきわめて難しい事態となった。弘子夫人を通じての貴重な資料呈示、好意的な調査指示が、現在もあるのみである。 しかしながら、弘子夫人は当研究者への協力を惜しまず、永久展示、個人蔵の所在、来春のグッゲンハイムでの展覧会準備状況についてなど、示唆と情報を提供してくださっている。また、河原温の考え方を当然ながら知悉しておられ、今後もそれを伝えていただけるものと思われる。 さて、「言語/形象」関係論研究は、方法的に河原温芸術を多次元構造体とみなし、その周辺を多角的にめぐりつつ、実証的言説や諸研究の再精査、同時代の複製技術・通信技術論をも積み重ねていくものとする。この方法はベンヤミンがパサージュ研究でとった方法に学ぶものである。したがって、諸研究成果は断章形式で集められ、次の「12.今後の推進方策」のパースペクティヴにしたがって整頓される。 また、研究者自身による刊行物で論考整頓のための紙の媒体「ON / ON KAWARA」は、すでに当初の計画通り小冊子にして刊行されはじめた。現在、確定されたデザインのうちに研究内容が組版されて、6冊の刊行を数える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究にあたっては、各小研究をA、B、Cの三つに分けて進める。下記ではA、B、Cともに各小研究のテーマとその具体的な調査研究対象を示している(小研究テーマ/研究対象の順に記載)。なお、これらの小研究は同時的に進行中のもので、各研究調査結果は、順次、論考整頓のための紙の媒体「ON / ON KAWARA」に Work in Progressとして累積され函に収められるが、累積されながら改稿され、再構成されていく。 《A:形態論》美術作品にあらわれるタイポグラフィック形象:パウル・クレーの文字絵、ダダにおける文字等/美術作品と書物形態:アーティスト・ブックにおける河原温/美術作品と通信形態:メールアートにおける河原温/美術作品と市街形態:モンドリアン、デュシャン等と河原温/美術作品と制作規則:概念芸術におけるルールの意味 《B:展示論(主に"Date Painting")》文字形象を含む美術作品とその展示(1):Pure Consciousness と幼稚園展示/文字形象を含む美術作品とその展示(2):他の美術家の作品との併置展示/文字形象を含む美術作品とその展示(3):他の書物との併置展示/文字形象を含む美術作品とその展示(4):個人の生活空間での展示/文字形象を含む美術作品とその展示形態(5):パーマネント・インスタレーション/文字形象を含む美術作品とその展示形態(6):メールアートを展示することの逆説 《C:思想研究》戦後日本美術と河原温(1):山下菊二、製作者懇談会、花田清輝/戦後日本美術と河原温(2):「印刷絵画論」/戦後日本美術と河原温(3):岡崎和郎インタビュー/世界周遊期の河原温:絵画文法論/複製技術と「言語/形象」論:W.ベンヤミンの言語思想研究
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次年度の研究費の使用計画 |
とりわけ物品費における繰り越しが多く発生したのは、当該費目にて購入を予定していた書物の流通的性質上、その高価を予想し購入計画を立てていたが、研究経費の節減の為、古書店等を多く利用したところ、研究資料として価値あるものが存外な安価にて入手することができた為。 上記繰り越し分については、次年度(平成26年度)の旅費に充当したいと考えている。というのも、今年度(平成25年度)における研究調査の過程において、平成27年2月グッゲンハイム美術館(アメリカ・ニューヨーク)にて河原温を特集する展覧会が予定されていることが判明した。この展覧会への出張調査は、本研究を遂行する上で必須のものと考えられ、当初の平成26年度の計画には入っていなかったアメリカ調査の旅費として使用したい。
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