研究課題/領域番号 |
25370118
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 昭和音楽大学 |
研究代表者 |
稲田 奈緒美 昭和音楽大学, 音楽学部, 准教授 (70367100)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | バレエ史 / 舞踊論 / 創作バレエ / 石田種生 |
研究概要 |
本研究は、西洋から移入したバレエという舞踊様式で日本のオリジナル作品の創造を目指した舞踊家・石田種生(1929-2012)が遺した資料を基に、その具体的手法と思想、背景を調査、研究することが目的である。石田のバレエ関係資料は多岐にわたるが、その中で本研究が着目するのはバレエ台本、振付資料である。言語を用いないバレエの創造過程で、振付家がいかに言語や図によって作品を構想し、記録したかを検証することを通して、作品の具体的な内容やその思想を研究することが可能になる。そのための研究環境を整備し、将来的には一般に公開して社会へ還元するため、2013年度はバレエ台本と公演プログラムに対象を絞って、アーカイブ化に着手した。具体的には資料を整理して目録を作成し、アーカイブ構築のためのシステムの検討を行った。同時に資料のスキャニングを行いデータを保存しながら、その内容、特質を見極めることで、より効率的なアーカイブ構築を目指した。 一方で、研究資料を用いて研究会を企画、開催する際に、石田が所属し多くの作品を発表した、東京シティ・バレエ団との連携を密に行った。石田の代表作の一つである、石田版『白鳥の湖』(現振付はプティパ、イワノフ)をテーマに研究会を開催し、長年にわたって石田作品に出演、補佐してきたダンサー、バレエミストレスから、現役のダンサーまでが一堂に介する機会を得た。そこではダンサーの特質を生かして身振り、手振りを多用した豊かな言語表現が活発に行われ、身体性を有したオーラルヒストリーを収集すると共に、批評家や遺族からも貴重な証言を得ることができた。 さらに、石田と同世代の振付家へのインタビューを行い、その思想と社会背景を調査した。また、石田と交流の深い韓国人バレエダンサーにもインタビューを行うことで、石田が目指した、日本からアジアへと広がるオリジナルバレエについて調査することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(1)研究資料の調査、分析とアーカイブ化、(2)研究会開催やインタビューによる関係者からのオーラルヒストリー収集、(3)これらを活かし、深化させるための、研究者と芸術家が共に参加し、活発に討議を行う研究会の開催、という三つの柱から構成されている。多岐にわたる内容であるため、本年度は全体を俯瞰しつつ有用な情報を入手して、個々の研究に着手したという意味で、概ね順調である。一方、研究成果の発表としては、現段階ではまとまった形を成すに至っておらず今後の課題となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては、当初の計画に準拠しながら、基本的に平成25年度の研究を継続する。具体的には、資料のアーカイブ化の推進と関係者からのオーラルヒストリーの収集、研究会の開催である。ただし、これまでの研究を元に、数多くの創作バレエ資料の中から対象となる作品を絞り、より具体的な内容をバレエ台本の記述と記譜、石田の文章から掘り起す。それと同時に、研究会では関係するバレエ振付家、ダンサーらの協力を仰ぎ、ダンサーの豊かなノンヴァーバル情報をも活用して、紙媒体に残された資料を多角的に分析し、研究を推進する。また、これまでの研究によってオーラルヒストリーを収集すべき関係者は、日本のみならず、石田が留学して多大な影響を受けたロシア、独自にバレエ文化を発展させて石田作品を上演したアメリカ、また、石田と交流が深かった韓国に広がっていることが判明した。石田が目指した日本オリジナルバレエの背景となり、あるいは実践の場となった、これらの国のバレエ環境と関係者に対する調査、研究を効率的に推進したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
アーカイブ構築の方法を検討した結果、より安価で効率的な、既存のシステムを購入してカスタマイズすることになったため、当初計画より支出が減った。 本研究を推進するための基礎的な資料となる、バレエ台本、公演プログラム等の資料のアーカイブ化を推進するために、システムの構築とデータ保存の方法を随時検証しながら作業を進める。これにはデータ入力を行いながら不具合を発見し、漸次システムを改良するための綿密な作業と、関係者の連携が必要となる。また、国内外でバレエダンサーや振付家、批評家などからオーラルヒストリーを収集するために、研究会開催やインタビューを通して積極的に情報を入手し、関係者との交流を深めつつ、収集した情報を文章化して保存する。さらに、研究成果を発表するために学会、研究会への参加、論文発表などを行う。
|