研究課題/領域番号 |
25370119
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研究機関 | 名古屋芸術大学 |
研究代表者 |
舟橋 三十子 名古屋芸術大学, 音楽学部, 教授 (00360230)
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研究分担者 |
高田 幸子 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 准教授 (90445833)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ソルフェージュ / フォルマシオン・ミュジカル / 聴音・新曲視唱・新曲視奏 / 音楽基礎教育 / 教材開発 / パリ音楽院 / コンセルヴァトワール / フランス |
研究実績の概要 |
ソルフェージュは、我が国においては、総合的な音楽基礎教育としてではなく、音楽大学や音楽高校への入学試験に必要な受験科目のひとつとして考えられている。 音楽大学や音楽高校への進学が差し迫った時点で、入学試験に急きょ間に合わせるため、あわててソルフェージュのレッスンを受け、機械的な訓練をするようになるのが日本の現状である。 本研究の目的は、我が国の音楽基礎教育としてのソルフェージュを、総合教育としての必要性が問われる広がりの中で、近年、研究者の間で関心をよぶようになったフランスの新しいソルフェージュであるフォルマシオン・ミュジカルに的を絞り、その研究の文献資料を調査・収集し、日本向けの教材を新たに作成することにある。 昨年度に引き続き、フランス調査旅行により、多くの研究者と出会い、文献資料についての貴重な示唆を受け、時間と予算の許す範囲で書籍・資料を購入した。これをもとに、新しいソルフェージュと言われているフォルマシオン・ミュジカルのテキスト2冊を執筆し、出版した。また、名古屋芸術大学研究紀要に研究の成果を発表した。さらに、音楽之友社のホームページに、フォルマシオン・ミュジカルに関するWEB連載を2ヶ月に1回のペースで連載中である。 ドイツ語圏の基礎音楽教育の調査としては、昨年度に引き続き、研究分担者がチューリヒ高等音楽院を視察し、意見交換して知見を深めた。特にチューリヒ高等音楽院におけるICT活用は目覚ましく、教育に最大限、生かされているが、フランスのフォルマシオン・ミュジカルの考え方は広まっていないように思われる。 今後も、研究紀要、雑誌、一般向けの講座などを通して、フォルマシオン・ミュジカルの考え方を広く発信し、著書の形でも公表していく予定である。また、大学の授業では、昨年度に執筆したテキストに基づき、フォルマシオン・ミュジカルの講義・演習を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料収集、現地調査に関しては、全て予定通りに進んでいる。 フランスの現地調査は、2014年11月と2015年3月に研究代表者がパリに赴き、行った。現地で購入したフォルマシオン・ミュジカルのテキスト・資料をもとにして、日本の学生のレベルに即して執筆したテキストを2冊出版した。このテキストでは、日本人によく知られているクラシックの名曲の一部を抜粋し、その楽曲に関するフォルマシオン・ミュジカルの問題を多く取り入れている。対象とした作品は、幅広い時代やジャンルから抽出し、音楽史から音楽理論までもを含む設問や課題となっている。また、日本の大学の授業形態に即して、前期・後期の授業日数で終了できるよう編集・構成して執筆した。 これらのテキストを実際の講義や授業に用いた場合と、フランスのテキストを用いた場合とでは、学生の反応や理解度の相違点が確認され、今後の研究の指標となった。具体的には、フランスのテキストでは、フランスの民謡が課題として多く取り上げられているため、日本人に馴染みがなく、反応が薄い。それに対して、今回執筆したテキストには、音楽学習者に馴染み深い作品が多く取り上げられているため、学習者にとっては親しみ易く思われ、それが学習意欲の向上に寄与していると考えられる。 ドイツ語圏のソルフェージュ教育の現地調査は、2014年10月に研究分担者がチューリヒ高等音楽院に出向き、行った。日本に比べてICTの活用は多く見られたが、フランスのフォルマシオン・ミュジカルとの類似点はあまりなかった。 日本の音楽大学での理論科目(和声学、対位法、楽曲分析等)とソルフェージュとの関連性について、外部の識者を招聘し、音楽学部の学生や一般の音楽家を対象とした公開講座を実施し、理解度を調査した。今後の継続研究、WEB連載、音楽家向けの講座等を行う上での手がかりとして、この調査結果が活きてくると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに入手できたフランスのフォルマシオン・ミュジカルに関する資料・楽譜・テキストの分析を行い、入学試験や在校中の試験の実態や評価基準等について、日本の音楽基礎教育との比較をしながら、問題点の考察を試みる。 平成26年度に出版した2冊のフォルマシオン・ミュジカルのテキストを実際に授業・講義で用いてみた結果、新たな問題点・疑問点がいくつか見られた。これらを検討し、次のテキストの作成に改善点として活かし、執筆・刊行する予定である。 問題点の具体的な例としては、1つの作品に対する設問の数を増やしたため、難易度の高い問題が多く含まれてしまい、想定していたよりも難しいテキストとなってしまった。また、著作権の問題があり、設問の対象とする作品が限られたため、古典・ロマン派の曲が中心となってしまった。このテキストには、数多くの譜例が掲載されているが、本来は楽譜だけでなく、実際の演奏を耳で聞きながら学習することが理想である。しかし、費用の点から、CDを添付できなかった。実際の授業でテキストを音源なしで用いた場合と、音源を併用して実施した場合では、明らかに後者の方が学習意欲や態度に向上が見られたため、音と楽譜を併用することがいかに大切か、ということが判明した。 この2年に渡る研究の結果によって、フランスと日本における音楽の基礎教育としてのソルフェージュを概観でき、相違点について理解を深めることができたが、日本における音楽基礎教育の問題点はまだ数多くある。最終年度は、これらを整理・総括し、新たなテキストを執筆・出版し、音楽家向けの講座やWEB連載等を通して、研究の成果を広く発信していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランスのコンセルヴァトワールの現状視察に関しては、今回は先方の教授との日程の調整がつかず、取りやめになったため、滞在期間が短くなった。代わりにフランスではフォルマシオン・ミュジカルに関する資料・楽譜・音源等の収集に専念した。宿泊施設も廉価なホテルに宿泊して費用を浮かせた。また、専門の通訳を依頼せず、可能な限り自分だけでコミュニケーションを取るようにし、通訳の費用も浮かせたため、平成26年度分の研究費に未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度、日程の調整がつかなかったフランスのコンセルヴァトワールの教授たちとの情報交換、資料収集等のために渡仏の予定があり、そのための旅費、専門の通訳の依頼等に、昨年度の未使用金を使用する予定である。さらに、今までの資料整理やデータ処理のための人件費・謝金、またプリンタのインク、文具、印刷用紙等の様々な消耗品の購入にも充てる予定である。
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