研究課題/領域番号 |
25370120
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岸 文和 同志社大学, 文学部, 教授 (30177810)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポスター / 大衆的図像 / 大衆 / 視覚文化論 / 隠喩 / 換喩 |
研究概要 |
本年度は、2つのシンポジウムをコーディネートし、2点の論文を発表した。 第1のシンポジウムは、「第5広告媒体論――ポスターの歴史と理論」(『美術フォーラム21』刊行会主催、於京都国立近代美術館、2013年10月)である。岸が『美術フォーラム21』第27号(2013年5月刊)において編集した特集「ポスターの視覚文化論」の執筆者17名から、岸を含む4名を選んでパネリストとしたもので、ポスターがヒトやモノやコトの魅力を創出する――受容者が魅力的なものとして認識する――メカニズムを批判的に解明することを目指したものである。 第2のシンポジウムは「MINHWAと大津絵――〈民画〉という思想」(大正イマジュリィ学会主催、於同志社大学、2013年7月)で、日本と韓国(朝鮮)の近世において、庶民的なレベルで護符や祈願のメディアとして大いに利用された民画(大津絵/MINHWA)の研究について、理論的な可能性を追求したものである。岸を含む日本と韓国の研究者5名によるディスカッションを通して、近現代の大衆的図像の一種であるポスターについても、ハイカルチャーとしての「美術」との間に取り持つ対立と融和という垂直的な文化力学を考慮する必要性があることに気づかせた。 また、第1の論文は、特集「ポスターの視覚文化論」の中で執筆した「歌麿筆『名取酒六家選』のレトリック――隠喩と換喩」(同前、56-64頁)で、魅力を創出する視覚的装置(device)としての隠喩と換喩について考察した。 第2の論文は、「御鏡師中島伊勢と北斎――家業不器用に付き廃嫡?」(近畿大学日本文化研究所編『日本文化の名と暗』風媒社、2014年3月、203-222頁)で、通俗的なイメージとしての浮世絵を描く葛飾北斎の家系を調査したものであるが、近代日本のポスターの生産システムについても示唆を与えるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は、視覚文化論的な枠組みのもとで、日本近代の広告図像が、どのような商品/サービス/社会的行動を、どのような視覚的装置(device)を利用して、どのような魅力をもつものとして表象することによって、消費者の購買・利用・遂行欲求に働きかけようとし、働きかけることができたかを、具体的事例に即して検証することである。そのために、最初の2 年間である平成25年度と26年度は、アルコール飲料と運輸サービスを宣伝する静止画(ポスター)と動画(テレビCM)に絞って調査し、生産(制作意図)・消費(効果反応)の状況が判明している資料を収集し、レトリック(隠喩/換喩、換喩の場合は商品と隣接するものの間の意味論的関係)に注目しながら、商品の「魅力」を分析することを目的とした。 平成25年度については、2つのシンポジウムをコーディネートし、2点の論文を発表することによって、理論的な成果はあったが、資料調査については、必ずしも十分な成果があったとは言えない。というのも、そもそも広告資料は、その数が膨大であり、また未整理であるため、資料収集についてはこれで十分ということはあり得ないからである。今後は、資料収集の方針・範囲を明確に定めた上で、実行する必要を痛切に感じている。 一方、平成25年度には、大衆的/庶民的図像の一種としての「民画」について、韓国と日本の視覚表象を比較・検討することによって、両者の差異性と類似性について、視覚文化論的に考察するシンポジウムをコーディネートしたが、このことは当初の研究目的の未熟さに気づかせることとなった。というのも、このシンポジウムは、日本の広告図像についても、韓国や中国を含めた「東アジア」という国際的なコンテクストにおいて、改めて見渡す必要を感じさせたからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、日本の「大衆」が誕生した大正から昭和初期にかけての時代に焦点を合わせて研究を行うことにする。というのも、そもそも「大衆」とは、「新中間層」と呼ばれたサラリーマンや労働者、職業婦人などを中心に構成された社会集団であって、その文化は、出版の普及とマスメディアの活性化を特徴とするが、ポスターは、その文化を象徴する視覚メディアとして、およそ1919(大正8)年から1921(大正10)年にかけて急激にその数を増やしたからである。この時期に制作されたポスターは、どのような商品・サービス・行動を、どのようなテクスト/イメージ的レトリックを採用することによって、どのような魅力をもつものとして表象しようとしたか分析することで、日本の大衆が抱いていた欲望の内実を明らかにすることが、具体的は課題である。 そのために、今後は、次の4つの点に留意して、研究を行うこととする。すなわち、「大衆」が成立した日本の大正・昭和期のポスターを、孤立したモノとして把握するのではなく、第1に、一定の状況(注文主/制作者/仲介者/受容者/歴史的・社会的・文化的コンテクスト)の内部で機能するメディアとして多元的に把握する点、第2に、他の大衆的図像(装幀/挿絵/グラビア写真/雑誌広告/新聞広告/絵はがき/商品ラベルなど)との水平的関連(類似性/差異性)を視野に入れる点、第3に、雅/俗(ハイカルチャー/サブカルチャー、伝統/新興)の対立と融和という垂直的な文化力学を考慮する点、第4に、東アジア(中国/韓国/日本)という同時代の異文化コンテクストを参照する点である。 具体的な研究計画としては、本年度は、大正イマジュリィ学会の協力を得て、韓国から金相燁氏(建国大学校人文学研究院研究教授)と香港から呉咏梅氏(香港大学現代言語文化学部准教授)を招聘して、少なくとも2回のシンポジウムを開催する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
適切に執行した結果、残高が生じた。 残額の1,560円は、次年度の助成金(900,000円)とあわせて、「ENDNOTE(エンドノート)」という文献管理・論文作成支援ソフト(51,223円)を購入するのに充てる予定である。
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