研究課題/領域番号 |
25370120
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岸 文和 同志社大学, 文学部, 教授 (30177810)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 広告 / 宣伝 / 視覚文化論 / 表象 / 幸福 / 欲望 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、サントリー文化財団の助成を受けるとともに、大正イマジュリィ学会の全面的な協力のもとで、国際シンポジウム「東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論」を3回主催することによって、日本・中国・韓国の広告事情について共通理解を深めるとともに、2点の著書を刊行した。 第1回国際シンポジウム(2014年8月22・23日、於同志社大学)では、岸が趣旨説明「大衆の欲望:〈大正広重〉吉田初三郎の鳥瞰図を手がかりに」を行い、李培徳(香港大学経済・商学部准教授)、金相燁(韓国文化財庁文化財鑑定官)、その他5名の日本人研究者が研究発表を行った。 第2回国際シンポジウム(2014年12月27日、於同志社大学)では、岸が趣旨説明「大衆の欲望:吉祥図像が表象する前近代的な幸福を手がかりに」を行い、権昶奎(延世大学比較社会文化研究所専任研究員)と4名の日本人研究者が研究発表を行った。 第3回国際シンポジウム(2015年3月13・14日、於京都精華大学)では、岸が趣旨説明「ポスターのレトリック:欲望喚起のメカニズム」を行い、ジョルダン・サンド(ジョージタウン大学歴史学科教授)、孫秀蕙(国立政治大学広告系教授)と陳儀芬(同研究員)が研究発表を行うとともに、佐藤守弘(京都精華大学教授)の司会で全体討論「モダニティの広報:20世紀前期東アジアの視覚文化を考える」を行った。 著書(論文)の第1は、近畿大学日本文化研究所編『自然に向かう眼』に掲載された「行楽への勧誘:吉田初三郎の鳥瞰図に見る〈パノラマ的眺望〉」で、大正期を代表する欲望のひとつである〈行楽〉=鉄道旅行を、視覚文化論の立場から考察した。第2は、鄭炳模編『韓国の彩色画:宮廷絵画と民画の世界』第2巻「花鳥画」に掲載された「吉祥の図像学:民画と幸福」で、東アジアに通有の〈幸福〉=欲望の対象(福・禄・寿)について、視覚文化論の立場から分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、視覚文化論的な枠組みのもとで、日本近代の広告図像が、どのような商品/サービス/社会的行動を、どのような視覚的装置(device)を利用して、どのような魅力をもつものとして表象することによって、消費者の購買・利用・遂行欲求に働きかけようとし、働きかけることができたかを、具体的事例に即して検証することを目的とする。そのため、平成26年度は、日本の大衆文化が誕生した大正から昭和初期のポスターに焦点を合わせて、研究を行うこととした。というのも、大衆文化は、都市化の進行と教育の普及を背景にして誕生した「大衆」――「新中間層」と呼ばれたサラリーマンや労働者、「職業婦人」などを中心に構成された社会集団――の文化で、文化産業としてのマスメディアによって仲介される「消費」を特徴とするが、ポスターはその消費文化を象徴する視覚メディアだからである。具体的には、1919(大正8)年から1921(大正10)年にかけて急激にその数を増やしたポスターを手がかりにして、日本の大衆が抱いていた〈欲望〉の内実を明らかにすることを課題とした。 平成26年度は、幸いにもサントリー文化財団による「人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成」を受けるとともに、大正イマジュリィ学会の全面的な協力を得て、3度の国際シンポジウム「東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論」を組織することによって、研究を、さらに学際的・国際的なものへと進展させることができた。シンポジウムの成果は多々あるが、最大のものは、日本・中国・台湾・韓国の研究者が、それぞれの文化圏で流通していた広告図像を研究する視点と方法を、相互に比較・検討する共通の場を確保したことである。東アジア(日本/中国/台湾/朝鮮)の文化圏において、同一の日本製商品が、異なった表象によって広告・宣伝されている事実への注目などは、その具体的な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、消費文化、家庭生活、合理的生活、マスコミなどの点で現代の文化現象に直結する大衆文化を解明することを目的としている。平成27年度は、引き続き大正イマジュリィ学会の全面的な協力を得て、国際シンポジウム「東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論」を組織することを試みる。その際、東アジア(日本/中国/台湾/朝鮮)の文化圏において、同一の日本製商品が、異なったイメージ/テクスト表象によって広告・宣伝されている事実に注目して、津村順天堂の中将湯・バスクリン、森下博薬房の仁丹、中山太陽堂のクラブ化粧品、壽屋の赤玉ポートワイン、鈴木商店の味の素の新聞/雑誌広告とポスターに絞って、東アジア諸国での事例を博捜し、比較し、広告手法を分析することを具体的な課題とする。 そのために、平成27年度は、引き続き、次の3つの点に留意して研究を遂行することとする。すなわち、大正時代から昭和初期にかけての広告を、第1に、一定の状況(注文主/制作者/仲介者/受容者/歴史的・社会的・文化的コンテクスト)の内部で機能するメディアとして多元的に把握する点、第2に、他の大衆的図像(新聞・雑誌・小説の挿絵、グラビア写真、絵はがき)との水平的関連(類似/差異)を視野に入れる点、第3に、雅/俗(ハイ/サブ・カルチャー、伝統/新興)の対立と融和という垂直的な文化力学を考慮する点である。 本研究は、学際的(芸術学/美学/美術史/デザイン史/写真史/社会学/歴史学)、かつ国際的な研究会を開催することによって、広告史においてユニークは広告手法を採用したことで知られる5つのブランドに焦点を合わせて、東アジア文化圏の大衆が想像/創造した理想的状態(幸福)の内実を検証しうるものと確信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
適切に執行した結果、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額の5,204円は、次年度の助成金910,000円(直接経費700,000円+間接経費210,000)とあわせて、海外から研究者を招聘するための費用(旅費)の一部に充てる予定である。
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