本研究は、日本近代の広告図像が、どのような商品/サービスを、どのような視覚的装置(device)=レトリックを利用して、どのような魅力をもつものとして表象することによって、消費者の購買・利用欲求に働きかけようとしたかを、具体的事例に即して検証することを目的とする。そのために、2014年度と2015年度の2年間にわたって、サントリー文化財団の助成も受け、大正イマジュリィ学会の全面的な協力のもとで、国際シンポジウム「東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論」を通算6回開催し、この時期に、東アジア(日本/中国/満州/台湾/朝鮮)で流通していた5種類の日本製ブランド(中将湯/仁丹/クラブ化粧品/赤玉ポートワイン/味の素)の広告テクスト/イメージを、視覚文化論の枠組みにおいて比較した。その結果、少なからざる広告が、地域と時代に固有の美人イメージを換喩的に利用することによって、「文化生活」に集約される《幸福》を表象していることを確認した。 最終年度は、6回のシンポジウムの総括を行うため、海外の研究者から計10本(中国語3本、韓国語4本、英語2本、日本語1本)、国内の研究者から計7本の論考を集め、総括論文として拙論「大正期広告研究への視座――ヴィジュアル・レトリックを中心に」を付して、『大正期東アジアにおける新聞広告の視覚文化論――日本製品が約束する幸福のかたち』(全323頁)を、学会誌『大正イマジュリィ』の別冊として刊行した。 また、近畿大学日本文化研究所編『対話――潜在する可能性』(風媒社、2017年3月)に「奈良電がやってきた。――昭和三年刊「沿線案内」三種に見る鉄道旅行の歴史」(312-340頁)を掲載し、鉄道旅行の魅力を宣伝するメディアである「沿線案内図」の図像的・様式的な特徴が、鉄道旅行の歴史的変化(遊覧/行楽/観光)に対応していることを明らかにした。
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