本研究課題はイランの音楽家達を対象に、それぞれの音楽教授方法の差異を、映像としてデータベース化する中からその変化の要因を考察するものである。それにより、かつてイランで行われていた徒弟制的な教育方法やそれを支える「教育・知識」観が、いかに多様なものへと変化したのかを探り、その成果を音楽教育学に還元することが目的である。 当初の研究計画では、主にイラン国外においてフィールドワークを実施する予定でいたが、現在のイラン情勢が新大統領となってから思いのほか安定しており、2年目からはイランでのフィールドワークに方向転換することになった。アメリカでのイラン系移民音楽家調査は、カリフォルニア州だけであっても地理的に離れた複数の都市を時間をかけて移動する必要があったが、2014年1月からのイラン調査においては全てテヘランにおいて達成することが可能であり、イラン国内において多くの教授法のサンプルを収集するほうがメリットが多いと判断したためである。イラン国営放送に勤めるVahid Rastegariから音楽家を紹介してもらい、音楽教授法の変化に関する説明およびインタビューを下記の音楽家たちの協力を得て行った。各氏について参与観察を複数回実施し、すべて映像と音声を記録した。トンバク奏者hamid qambari氏 声楽家hamid nurbakhsh氏 セタール奏者iraj dashtizadeh氏 サントゥール奏者kourosh matin氏 ウード奏者farnush tadayon氏 上記のデータ収集とそれらの考察からは、特にセタールやウードなどの身体性とそれに対応した教授の中身はサントゥールのそれとは大きく異なることが判明した。このことから「諸民族の音楽」の授業においては、音楽そのものだけではなく、楽器ごとに大きく異なる音楽認識の差異についても将来的には教材化が必要だという点を指摘した。
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